【8月11日 AFP】海綿を用いて餌を採取することを覚えたバンドウイルカが、同じ方法を学習したイルカたちと好んで集うことを確認した研究論文が、英オンライン科学誌ネイチャーコミュニケーションズ(Nature Communications)に前月末、掲載された。動物も共通の関心事に基づいてグループを形成することを示す初めての事例だという。

 米ジョージタウン大学(Georgetown University)の研究チームによる同論文は、オーストラリアのシャーク湾(Shark Bay)に生息するバンドウイルカを対象にした調査結果をまとめたもの。

 シャーク湾に生息するバンドウイルカのなかには、海底のとがった岩から口を保護するため、くちばしに海綿を装着して採餌行動をする「スポンジング(sponging)」というスキルを学習した集団がみられる。

 22年間に及ぶ調査の結果、スポンジングを習得したイルカたちは、そうでないイルカよりも自分と同様にスポンジングスキルを持つイルカたちとより緊密な関係を結ぶことが分かった。

 論文によれば、動物界における文化行為を示す初めての証拠となる可能性がある。

■イルカは「同好の士」を好む?

 論文は、「人間はサブカルチャーが共通する相手と好んで仲良くする。同様に、道具を使うイルカも自分と似た仲間を好んでいた。これは、海綿を道具とする行為が文化的なものであることを強く示唆するものだ」と指摘する。

 スポンジング自体は単独で行う活動だ。この点について、論文執筆者のジャネット・マン(Janet Mann)氏は「イルカは集団でスポンジングを行うわけではないが、スポンジングをするイルカとそうでないイルカを見分けている」とAFPに説明した。

「スポンジングをするイルカたちは採餌活動に多くの時間を費やす。スポンジング中は単独で行動しているが、明らかにスポンジングをする仲間同士で意図的に集まっていた。こうした、いわば『仕事中毒』のイルカたちは、同じ仕事中毒のイルカたちと集うことを好むのだ」(マン氏)

■イルカの「学習」、集団全体には広がらない

 チームは動物界における文化行為の立証に向けた研究を続けており、今回発表された論文の調査も、その一環。「動物文化」の緩やかな定義は、個々の集団を差別化し得る社会的学習の形成とされている。

 シャーク湾でスポンジングを行うイルカが最初に発見されたのは1980年代半ば。研究チームは、スポンジングは同湾のイルカたちの間で数百年前から行われてきたと考えている。

 通常、動物の世界では集団の中で数匹が道具を使い始めると、集団全体がその道具を使うようになる。チンパンジーが棒を使って巣からシロアリを追い出したり、ゾウが木の枝でハエを追い払う行為などが、その一例だ。

 だが、シャーク湾のイルカの場合、スポンジングを行うようになったのは、スポンジングを習得した雌から生まれたイルカだけだ。さらに、スポンジングを行うイルカの数も3000匹の集団の中で5%以下と、小規模に留まっている。また、スポンジングを行うイルカは雌が主だった。

 論文によれば、人間以外の世界で独自文化を持つグループ例が確認されたことはない。前述のマン氏は、「活動自体は集団行為ではないが、その内容に基づいて動物がグループを作る初めての事例で、われわれが考える人類の文化と似ている」と語った。(c)AFP