【7月19日 AFP】2009年に行われた第12回世界陸上ベルリン大会(12th IAAF World Championships in Athletics Berlin)女子800メートル覇者で、その後は性別疑惑の渦中にあった南アフリカのキャスター・セメンヤ(Caster Semenya)は18日、今はただロンドン五輪で金メダルを獲得することだけを考えていると語った。

 現在シドニー五輪の陸上女子800メートルで金メダルを獲得したモザンビークのマリア・ムトラ(Maria Mutola)から指導を受けているセメンヤは、ドイツのベルリン(Berlin)で行われた世界陸上で快勝したものの、その後は性別検査と薬物検査を経験した。

 自身ではどうすることもできないほどの混乱を招いた状況についてセメンヤは、「自分という存在の中で最も個人的な部分やプライベートに土足で踏み入れられ、不当な捜査だった」と不満をあらわにした。

 その後、約1年にわたる大会出場停止を経て競技復帰を果たしたセメンヤだったが、復帰後に腰の故障に悩まされた。また、元コーチのマイケル・セメ(Michael Seme)氏不在が、同選手の低迷につながっているとも指摘されていた。

 英国メディアの取材に応じたセメンヤは、悪夢はすべて過去のものとなり、現在は金メダルだけを目指していると話している。

   「騒動はもう終わったことですし、今は将来のことを見据えなくてはなりません。年齢を重ねるにつれ、アスリートとして精神的な余裕を持てるようになってきたので、何に耳を傾け、何を見過ごせばいいのかわかるようになりました」

   「いつでもベストの走りを見せなくてはいけないことを理解していますが、それができないこともあります。私に必要なのは、否定的な状況に対する対処法です。時々、残念な気持ちになる質問をされることがありますが、私はプロとして前向きであり続けなくてはならないことを学びました。今回は私にとって初めての五輪で、特別な大会になります」

 またセメンヤは、もし五輪で何かを達成できたならば、それを17日に94歳の誕生日を迎えた南アフリカの政治指導者、ネルソン・マンデラ(Nelson Mandela)元大統領に捧げることを明かした。

 セメンヤの今季最高記録1分59秒18は、北京五輪の同種目金メダリストのパメラ・ジェリモ(Pamela Jelimo、ケニア)に5秒近く及ばないものの、反アパルトヘイト運動の政治犯として投獄されながらも、全人種参加の選挙で選ばれた初の南アフリカ大統領となったマンデラ氏と初めて会見した時のことを回想し、次のように語った。

   「初めて会った時、元大統領は私のことを小さな女の子としか見ていませんでした。そんな私に元大統領は『君を信じている、だから試合に出て、私が誇りに思うような走りをしてください』と言ってくれました。その時の気持ちともらった言葉を忘れたことはありません」

(c)AFP