【6月13日 AFP】人間や家畜への狂犬病の伝染を防ぐために行われている吸血コウモリの駆除は、逆に伝染を拡大させてしまう恐れがあるとの調査結果が発表された。7日の英学術専門誌「英国王立協会紀要(Proceedings of the Royal Society B)」に論文が掲載されている。

「吸血コウモリ狩り」は、コウモリが互いにグルーミングをする習性を用い、捕獲したコウモリの体に毒を塗り、ねぐらにいる仲間にグルーミングを通じて毒をうつさせるという方法で行われる。しかし、この方法では狂犬病は抑制されるどころか、拡大すると論文は指摘している。

■南米では狂犬病の主要感染源

 調査は2007年7月から2010年10月にかけてペルーで行われた。米国とペルーの合同調査チームのリーダーを務めた米ジョージア大学(University of Georgia)のダニエル・ストライカー(Daniel Streicker)氏は、「憂慮すべき調査結果が得られた」と話す。「調査期間中、吸血コウモリの駆除が散発的に行われた地域では、狂犬病に感染したコウモリの割合が増加していた」と言う。一方で、駆除がまったく行われなかったコロニー(集団営巣地)での感染率は最も低かった。

 狂犬病は世界中で年間約5万人の死者を出しているが、コウモリは感染しても数年は生きられる。

 ラテンアメリカの農村部では、哺乳類の血を吸う唯一の種である吸血コウモリが狂犬病の主要な感染源となっている。この吸血コウモリたちは家畜の血を主な餌としているが、自分たちの生息環境が破壊された地域では特に、人間の血を吸うこともある。

 コウモリは他にも、ニパウイルスやエボラウイルスを媒介するが、蚊を食べたり授粉を媒介したりすることで人間に大きな利益ももたらしている。

 調査論文によれば、南米で吸血コウモリを媒介とした家畜への狂犬病感染例は、年間約50万件あった1960年代からは減少しているとみられるものの、現在でも年間およそ3000万ドル(約24億円)の損害を生じているという。

■成体の習性利用した駆除法、残るは免疫ない幼生

 ペルーでは1970年代以降、吸血コウモリの数を十分に減らすことができれば、対象コロニーの狂犬病ウイルスは死滅するだろうとの推測の下、駆除に重きを置いた狂犬病の拡大防止策が講じられてきた。

 だが今回の調査では、規模にかかわらず全てのコロニーで狂犬病ウイルスの存在が確認された。ストライカー氏は「この点は重要だ。なぜならば、コウモリの個体群密度と狂犬病の間に何の関連性もなければ、コウモリの数を減らしても、コウモリ間の狂犬病感染は減らないからだ」と警戒する。

 チームでは、狂犬病ウイルスに繰り返しさらされることによって、コウモリに免疫ができたとみている。こうした免疫を獲得した成体コウモリを駆除するためならばグルーミングを通じた駆除方法は効果があるが、グルーミングをしない幼生のコウモリには通用しないのではないかと、ストライカー氏らは推論している。それどころかこの駆除方法によって免疫のある成体の数が減ることで、免疫をもたない幼生ばかりになってしまうと指摘する。

 さらには駆除によって余地のできた近隣のコロニーにコウモリが移動したり、餌や生息空間をめぐる競争が弱まることで生まれるコウモリの数が増える点も、伝染を拡大させる可能性があると指摘している。

 研究チームはこうした調査結果を基に、ペルー当局がより効果的な狂犬病対策を講じられればと期待している。(c)AFP