【5月3日 AFP】テロリズムに悪用される懸念などから論文発表が見送られていた、哺乳類間でも感染する高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)ウイルスの変異株に関する研究の1つが、3日の英科学誌ネイチャー(Nature)に掲載された。

 H5N1ウイルスは鳥類の間では容易に感染するが、哺乳類へは感染しにくい。その代わり、ヒトに感染した場合の致死率は50%以上と非常に高い。

 前年、米国とオランダの研究チームがほぼ同時に、哺乳類間でも感染する変異株を作成したと明らかにしたものの、ヒト間での感染力を備えた変異株に関する論文が全文公開されれば生物テロなどに利用される恐れがあるとの懸念が浮上。米政府の諮問機関であるバイオセキュリティー国家科学諮問委員会(National Science Advisory Board for BiosecurityNSABB)が一部削除を求め、同委員会が審議する間、論文は2本とも専門誌への掲載が先送りされていた。

 今回ネイチャーに掲載されたのは、米ウィスコンシン大学(University of Wisconsin)の河岡義裕(Yoshihiro Kawaoka)教授率いる研究チームの論文。当初の論文の重要要素に変化は加えられていないと、ネイチャーでは説明している。

 河岡教授のチームは、H5N1ウイルスから赤血球凝集素(ヘマグルチニン、HA)として知られる遺伝子を取り出し、ヒトの呼吸細胞と結合しやすくなるよう変異させた。そして、2009年にヒト間で流行したものの通常のインフルエンザと同程度の致死性しか示さなかった新型インフルエンザA型(H1N1)のウイルス株のHA遺伝子を、この変異遺伝子と置き換えた。

 この「H5N1変異株」を、ヒトと呼吸器系がよく似ているとされるフェレット6匹に感染させたところ、フェレット間での飛沫感染が起こり、変異株がせきやくしゃみで感染し得ることが証明されたという。ただし死亡したフェレットはおらず、この点についてさらに研究が必要だとしている。

 こうした変異が自然界で起きるリスクは、特に鳥とヒトのインフルエンザウイルスが混合し得るブタなどで十分存在するという。今回の研究が衛生機関などに注意を喚起し、ワクチン開発の一助となるだろうと研究チームは述べている。

 一方、同じくヒト間感染するH5N1の変異株作成に成功したとするオランダ・エラスムス医学センター(Erasmus Medical Centre)のロン・フーシェ(Ron Fouchier)氏率いる研究の論文も現在、査読過程にあり、米科学誌サイエンス(Science)に間もなく掲載される予定だという。(c)AFP

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