【4月21日 AFP】ジム・クロウ法と呼ばれた人種隔離政策や奴隷制、公民権運動の戦いの傷跡が残る米国に初の黒人大統領が誕生した時、それは「ポスト人種差別時代のアメリカ」の到来だと称賛された。

 しかしここへ来て、フロリダ(Florida)州で武器を持たない黒人少年をヒスパニック系の白人自警団員が射殺した事件などいくつかの事件が、米国の人種格差に対する懸念を復活させている。

 2008年の大統領選でバラク・オバマ(Barack Obama)氏が勝利してから多くの米国人が、米国はついに人種差別を克服したと思ってきた。「ポスト人種差別時代」の米国の夢を語る声も聞かれた。しかし、ポスト人種差別時代などというものが実際に存在したのだろうかと、ニューヨーク州立大学(SUNY)バッファロー法科大学院(Buffalo Law School)のアセナ・ムティア(Athena Mutua)教授は疑問を呈す。

 オバマ氏の大統領就任を多くの米国人が歴史的意義のあることとしてとらえ、人種問題はもはや大きな懸案事項ではないという幻想を生んだと同教授は指摘する。当時、選挙戦でオバマ氏を支持した白人層が誇張されて報道され、米国は一歩前進したという印象を与えたという説明だ。「オバマ氏が幅広い層から支持を集めているという絵が描かれたが、誇張しすぎだったと思う。オバマ氏はこの国の白人の過半数の支持を得たわけではない。非常に多くの白人、ではあったが、過半数ではない」

 それどころかオバマ氏の大統領勝利は、人種的な変化を望まない人々の間に「この国で未解決だった問題すべて」を再燃させた。「彼の就任によって、すぐに反対側の力が活気づいた。非常に人種的な差別性を帯びたものだ」

 11月の大統領選でオバマ氏はおそらく共和党のミット・ロムニー(Mitt Romney)氏と戦うことになるだろうが、この選挙戦を控えて交わされている粗野で人種差別的な言葉に今、多くの米国人が呆然としている。

 今年初めにはある裁判官が、オバマ氏を人種差別的に中傷するジョークをメールで同僚に送り、謝罪する出来事があった。黒人に対する差別語を使って「Don't Re-Nig in 2012」(2012大統領選で黒人に再選させるな)と書いた反オバマ・ステッカーがインターネット上で飛ぶように売れたことも人々を驚かせている。

 また保守派の中に人種差別をにおわす言葉や、人種的に攻撃するような発言がみられ、批判を浴びてもいる。共和党の大統領候補争いに出馬しているニュート・ギングリッチ(Newt Gingrich)元下院議長がオバマ氏の選挙遊説を指して、米国で最高の「フードスタンプ・プレジデント」(食糧配給券大統領)と表現したこともその一例だ。ムティア教授は「(ギングリッチ氏の発言は)暗示的な攻撃だと批判を浴びている。それが人種差別的な発言であることは誰が聞いても分かる」と説明する。

 しかし共和党の政治家たちは、オバマ氏に対する人種的嫌悪を指摘されると、その嫌悪感は肌の色のせいではなく、彼の政治的志向のせいだと反発する。

 一方でオバマ氏本人は、自分や自分の政策に対する社会的認識に、自らの人種が影響していることは否定してきた。

 ジョンズホプキンス大学(Johns Hopkins University)のレスター・スペンス(Lester Spence)助教は、「ポスト人種差別時代」とは呼ばないとしても、ポップカルチャーなどを含め米国人の間で「差異に対する受容」が進んでいることを示す兆候は実際にあると述べる。音楽界や大衆文化、メディアなどで尊敬を集めている人物にアフリカ系がいるように、アフリカ系米国人に対する広範囲な社会的容認があり、それが人々の態度に変化を生んできたと述べる。「人種問題についての態度はとても複雑だ。人々はラッパーのジェイ・Z(Jay-Z)やリル・ウェイン(Lil Wayne)を愛し、何らかのテレビ番組で毎日、黒人性を消費している」

 政治の分野でも大きな前進がある。「国レベルで言って、オバマ氏の大統領選勝利以前の今からわずか10年前と比べても、黒人の市民としての扱われ方は非常に違う」とスペンサー氏は言う。しかし地域レベルになると、フロリダ州の事件で黒人少年を射殺した白人自警団員がすぐに起訴されなかったように、国レベルでは起きている変化が浸透していない、とスペンサー氏は指摘した。(c)AFP/Stephanie Griffith