【4月20日 AFP】今週、千葉県の銚子から、1人の英国人女性が手こぎボートでの太平洋横断に挑む。

 サラ・アウテン(Sarah Outen)さん(26)は、2009年に女性で初めて手こぎボートによるインド洋(Indian Ocean)横断を成功させた冒険家。現在、ボートと自転車で2年半かけての単独世界一周「London2London: Via the World(ロンドンからロンドンへ、世界を経由して)」に挑戦中だ。

 前年4月1日に英国を出発し、ボートで欧州へと渡った。ユーラシア大陸を自転車で横断すると、再びボートで日本に来た。

■「エンジンは私」

 太平洋横断を横断してカナダまでは6~7か月の航海となる。アウテンさんのボートには食料、発電機、衛星電話機、ナビゲーションシステム、そして海水を飲料水に変える脱塩装置などが積み込まれた。

 このボートに唯一欠けているものは、エンジンだ。「私がエンジンです」と、鍛えられた体でアウテンさんは語る。全長6.75メートル、船室2つだけのボートで、世界最大の海・太平洋を横断するのだ。これまでの冒険で最も厳しい挑戦となるだろう。

 カナダ・バンクーバー(Vancouver)で木々が落葉する頃、アウテンさんは4500カイリに及ぶ航海を終える予定だ。バンクーバーからはまた自転車に乗って北米東海岸を目指す。そこまで行けば、後はボートで北大西洋を渡るだけだ。
 
 神奈川県横須賀市の友人宅で大冒険の準備を進めているアウテンさんは、「冒険や挑戦が大好きなんです」とAFPの取材に語った。

 3年前に単独でのインド洋横断を思い立ったのは、そのさらに3年前の父親の死がきっかけだった。その体験を「何か前向きなことに変えたい」と思い、父親が長く患っていたリウマチ性関節炎に苦しむ人々のために寄付を募ろうと、オーストラリアからモーリシャスまで4か月、手こぎボートを漕ぐ冒険に出た。その時、頭の中には既に、陸や海を横断する世界一周という「大冒険」の構想があったという。

 今回の太平洋横断にも4つの目的がある。乳がんと運動ニューロン疾患の撲滅キャンペーン、障害がある人がヨットを楽しめるよう支援する慈善団体「Jubilee Sailing Trus」と、アフリカなどで安全な飲料水確保に努めるNGO「WaterAid」のための資金集めだ。

■子どもたちに「冒険の素晴らしさ」伝えたい

 太平洋横断の成功に自信を見せるアウテンさんだが、全てが順調に行くわけではないことも理解している。インド洋横断では、大波でボートが転覆し、サンゴ礁の上に投げ出されたことが3回もあった。

 だが、悪い記憶はすぐに薄れ、思い浮かぶのは楽しかった記憶だけだ。特に、クジラやイルカなど野生生物との遭遇や、夜空にきらめく星の美しさは忘れられないという。「自然に浸りきったあの感覚は、まさに魔法のようでした」

 こうした冒険の素晴らしさを他の人たち、特に子どもたちに知ってもらうことも、今回の冒険の目的の1つだ。

 たとえば、自転車でカザフスタンからロシアに向かっていた際に3人の男性からプロポーズされ、断った思い出などは、アウテンさんが好んで人々に話して聞かせるエピソードだ。「私は自転車と結婚しているの、と言って断ったの」とアウテンさん。「こうした経験を他の人たちと分かち合えると、とても楽しい。彼らも私の冒険を楽しめるし」

■「とにかく旅に出よう」

 アウテンさんによれば、何も大きな冒険を計画する必要はない。「ともかく旅に出かけ、その途上で色々学べばいいのです。要は、どう向き合うかです」

 今回アウテンさんが向き合うものは、太平洋横断だ。万一、勇気がくじけ状況が悪化したときのために、アウテンさんは座右の銘をボートに書き込んでいる。――「Keep calm and carry on(冷静に前へ進め)」と。

 アウテンさんの冒険の詳細は、本人のウェブサイト「www.sarahouten.com」で知ることができる。(c)AFP/Harumi Ozawa