【4月17日 AFP】ルブアルハリ砂漠(Rub al Khali Desert)の砂丘から雪を頂いたイタリア北部ドロミテ(Dolomite)へ――。アラブ首長国連邦(UAE)出身のザーラ・ラリ(Zahra Lari)が、女子フィギュアスケートの歴史の1ページを作った。

■ムスリムの戒律を守りながらの演技

 17歳のラリは、イスラム圏の女性が着用するスカーフ「ヒジャブ(hijab)」を着用して初めて競技大会に出場した湾岸アラブ諸国出身のフィギュアスケーターとなった。

 50か国以上の選手が参加した大会に出場したラリは、AFPの取材に対し、「私の国の女性は元々あまりスポーツをやらないし、ましてやフィギュアスケートなんてやりません」と静かに話し出した。

 ムスリムの戒律に従った彼女の黒いヒジャブと地味な衣装は、オレンジのチュチュやピンクのタイツの衣装をまとう他国の選手の中で逆に目立っていた。衣装についてラリは、「私はヒジャブを巻き、イスラム教の伝統に沿った衣装で演技します」と説明している。

 「ほかの女の子たちはとても優しく、私のことを受け入れてくれていると思います。みんなオープンな子たちで、問題も起こっていません。見世物ではなく競技なので、父も出場を許可してくれています」

 ラリの母親で米国出身のロキヤ・コクラン(Roquiya Cochran)さんは、愛娘を大会に出場させるために、夫の説得に時間を要したことを明かしている。

 「夫を納得させなければなりませんでした。最初は娘が男性の観客の前で踊っているものとしてしか見れなかったようです。ただ、私と一緒に見学するようになると、彼女が氷上でどれほど美しいかに気付いてくれました。夫は娘のことを愛しているので、彼女が幸せであることを望んでいます。彼女は肌の露出もしていないし、イスラム教に反することはなにもしていません」

■フィギュアスケートとの出会いは映画

 ラリがフィギュアスケートに憧れを抱いたきっかけとなったのは、11歳の時に観たウォルト・ディズニー・ ピクチャーズ(Walt Disney Pictures)の映画だった。

 「『アイス・プリンセス(Ice Princess)』は100回以上観ました。本当に大好きな映画です。これが私のやりたいことだと、自分に言い聞かせたんです」

 それから3年後、ラリはアブダビ(Abu Dhabi)のザイド・スポーツ・シティ(Zayed Sports City)でコーチのノエミ・ベド(Noemi Bedo)氏と出会い、夢への一歩を踏み出した。

 ベド氏は「通常、有望なスケーターは3歳から4歳の時にスケートを始めます。しかし、彼女には才能があり、力強く、他の人より高いジャンプを跳ぶことができる。(ラリの夢である)冬季五輪出場も不可能ではないと思います」と語った。

 イタリアのカナツェーイ(Canazei)で行われた競技大会は、国際スケート連盟(International Skating UnionISU)が定めるグランプリの水準を満たしていない。ラリは2月に行われたISU世界ジュニア選手権(ISU World Junior Championships 2012)に出場していないが、15位という結果を残した。

 ラリは、「多くのことを学んだすばらしい経験になりました。ここ数年の練習の成果を出せることができて本当に嬉しいです。他の選手に比べ競技経験は少ないかもしれないけど、自分らしく滑れたし、大会への出場が楽しみになりました」と語っている。

■夢は五輪出場、イスラム圏女性のスポーツ界への進出

ソチ冬季五輪出場を目指して、100パーセントの力を出したいと思います。それでだめだったとしても、2018年の冬季五輪出場を目指して挑戦を続けます」

 ラリの夢への決意は固く、週6日間は朝4時半に起床し、通学しているインターナショナル・スクールの授業が始まる直前まで練習に励んでいる。

「午前7時半までリンクで練習し、学校が終わる16時からさらに1時間半の練習を行っています。練習が大好きだし、夢を叶えたいから難しいことではありません」

 ラリは、「同じ国や周辺国の女の子たちに夢に対する希望と自信を与えたいと思っています。そしてフィギュアスケートに限らず、女性がスポーツをすることをもっと認めてもらえるきっかけになって欲しいです」と語った。(c)AFP/Emmanuel Barranguet