【4月11日 AFP】アイルランド・ダブリン(Dublin)で、14億ユーロ(約1500億円)相当の紙幣を材料に作られた「家」が一般公開中だ。ギャラリーも兼ねたこの「家」は、不況で日々の暮らしに苦しむアーティストのフランク・バックリー(Frank Buckley)氏による「Expressions of Recession(不景気の表現)」と題された作品。公開の目的は、低迷が続くアイルランド経済について議論を誘発することだ。

 アイルランド中央銀行(Central Bank of Ireland)が破棄・裁断した紙幣を材料にしたレンガ型ブロック製で、3室を有し、1月に完成した。制作期間は3か月。友人らから譲り受けた木材やドア、窓を使用しているため、最終的な建設費用は壁紙用の接着剤にかかった35ユーロ(約3700円)のみという。

「入場料は取らないが、寄付は募る予定だ。自作品約80点も展示・販売する」と、バックリー氏はAFPに話した。同じく廃棄紙幣で制作し「家」内部に展示しているコラージュ作品の売り上げを伸ばすことができればと期待している。

 バックリー氏によれば、5日に公開を開始して以来「家」には多くの人々が訪れているという。「好奇心をかきたてるんだよ」「みんな他の観光スポットを訪れた後に、ここに立ち寄るんだ」

「十数億ユーロを必要とするも不動産としての価値はほぼ皆無」という「家」のアイデアに共感するダブリン市民も多い。

 アイルランド経済はかつて「ケルトの虎」と呼ばれ、1990年代半ばから10年間にわたり2桁成長を誇った。だが近年は一転、不動産市場の暴落、財政赤字の拡大、失業率の上昇などにより急激に縮小している。

 バックリー氏自身もまた、不況のあおりを受けた1人だ。住宅ローン残高は評価額を上回り、所有していた自動車は当局に差し押さえられた。「ここ数年は、よく言っても大忙しだった」という同氏は現在、近所のジムで洗濯し、自宅隣のカフェで腹ごしらえする生活を送っている。

「家」が建てられたのは、不動産市場暴落の打撃をもろに受けた空のオフィスビル内。ビル所有者にとってはとんだ災難だったが、バックリー氏にとってはチャンスとなったようだ。「ビルが完成したと同時にバブルが崩壊した。それでもオーナーは喜んで建物を譲ってくれた」という。

「この作品が金銭と通貨をめぐる議論を生んでいることを、とても嬉しく思う。稼ぐ人、支払う人、作る人、そういった人たちはお金を使って何をするのだろうか」と語るバックリー氏。そのうちにギャラリーを畳み、国内外を巡回させたいと考えている。

「素晴らしいことに、通貨やお金の価値について課題に取り組む多くの学校から訪問がある。もし明日ギャラリーを畳むとしても、この試みは成功だったと言えるだろう」(c)AFP/Andrew Bushe