【4月2日 AFP】濡れたTシャツで胸などを透けさせる美人コンテストの一種「濡れTシャツコンテスト」で優勝することもできるよ、と顧客に告げるタトゥーアーティストは珍しい。米メリーランド(Maryland)州フィンクスバーグ(Finksburg)のありふれたショッピングセンターに店を構えるビンセント・ビニー・マイヤーズ(Vincent "Vinnie" Myers)さん(49)は、乳がん手術を受けた女性に乳首と乳輪のタトゥーを施すのが専門だ。

 マイヤーズさんは精密に混ぜ合わせた顔料で、乳腺切除手術を受けた女性の胸に、まるで立体に見えるイリュージョンを描き出す。タトゥーアーティストとしての28年のキャリアのうち、過去10年間は手術後の元患者への美容タトゥーに専念してきた。「今まで自分がやってきたどんなことより、ずっと働きがいがある」と語る。

 これまでに行った乳がん手術後の美容タトゥーは3000例。その多くは、店から車で30分の距離にあるボルティモア(Baltimore)の名高いジョン・ホプキンズ(Johns Hopkins)医療センターからの紹介だった。施術後の状態を見た女性たちの多くは、「完全に戻った」と実感して感情をひどく高ぶらせるという。

 ボルティモア生まれのマイヤーズさんは1980年代、韓国駐留米軍の軍医だったときにタトゥー施術を覚えた。そして2001年、友人から乳房再建手術を受けた女性にタトゥーを施すことを打診された。

■「精神面にとても大きな影響」

 その日、マイヤーズさんの店「リトル・ビニーズ・タトゥーズ(Little Vinnies Tattoos)」を訪れたスーザンさん(58)は、「できるだけ普通に見える」ことを望む典型的な顧客の1人だ。「自分のためにタトゥーを入れるの。タトゥーは私の気分をずっとよくしてくれるのよ」

 マイヤーズさんはまず、合併症やアレルギーがないかどうかスーザンさんに問いかけ、慎重な手つきで顔料を混ぜながら「施術が終わったら、濡れTシャツコンテストで優勝できるかもしれませんよ」とジョークで場を和ませた。続いて、「桃色ではなく、モグラ色に近い色、少し青みがかった色で施術します」と述べ、スーザンさんの白い肌に顔料を少量塗って色の配合が適切かどうかを確認した。

 タトゥーにかける時間は平均して2時間ほど。乳首の色や乳輪のサイズは1人1人に合わせて決める。施術料は、技術の複雑さの度合いによって350ドル(約2万9000円)~1000ドル(約8万3000円)。

「完璧に再建された乳房は、乳首がないようには見えません」と、マイヤーズさん。「朝、目が覚めて、鏡に姿を映すと乳首がない――これは精神的にとてもショックなことです。見た目がノーマルに可能な限り近いことが非常に重要なのです」

■求められる専門タトゥーアーティスト

 病院でも、乳腺切除後のタトゥー施術は提供されている。だが、病院でのタトゥーは「数日程度」の訓練しか受けていない看護士が施すのが一般的だとマイヤーズさんは指摘する。

 また、施術を受けるのが病院ではなく、どこにでもあるようなタトゥーショップだということも、女性たちの気分をずっと楽にしているという。リラックスできるうえ、「ここなら、病院よりも多少は楽しめますからね」とマイヤーズさん。

 需要はうなぎ上りだが、こうしたサービスを提供しているタトゥーアーティストは少ない。マイヤーズさんは技術を2人のタトゥーアーティストに継承する傍ら、ニューヨーク(New York)やフィラデルフィア(Philadelphia)、ニューオーリンズ(New Orleans)などまで出張施術にも出向いている。(c)AFP

【動画】取材を受けたマイヤーズさん(YouTube/AFPBB News公式チャンネル)