【3月16日 MODE PRESS】ロンドンをベースに活躍するデンマーク人デザイナーのピーター・イェンセン(Peter Jensen)が、昨年ブランド10周年を迎えた。これまでのデザインワークやアートビジュアルなど10年分の活動を収めたアニバーサリーブックの刊行やロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート美術館(The Victoria and Albert MuseumV&A)でのエキシビション、コペンハーゲンで回顧展など常に精力的な活動を繰り広げている。数々の思い入れあるコレクションや写真を見ながら、これまでの10年を振り返った。

―10年ふりかえって

 2011年は本の制作にあたり、これまでのアーカイブを見直す良い機会でした。特にここ数年は、デンマークで回顧展やV&Aファッションエモーションでのファッションショー、そして日本でのエキシビションと忙しくしていました。アーカイブをみながら気がついたことは、これらすべてが同じ手から生まれたモノであると確信したこと、そしてそれらに赤い糸のようなものを感じました。10年続けてきたことで、ブランドとしての強み、フォーカスするポイントもみえてきました。

-アニバーサリーブック刊行について

 10年というのはやはり人生においての節目。イベントやショーではなく、プレスの人がいいと思うモノだけが残るかたちでもなく、自分たちがいいと思うモノを残したかった。それもあって今回、本という形式を取りました。買ってくれた人たちが永遠に所有し、観ることができ、自分なりの感性で楽しむことができるから。本のなかで、エミリー・キングとスザンナ・フランコに文章を書いてもらえたこともうれしかったですね。

-今までで最も印象的なコレクション

 ショーで思い出深いものは、2005年SSのアイススケーティングがテーマのコレクションです。当時、財政難だった時期で、ショーをやるかどうか非常に悩みました。しかし、アイデアはどんどん出てくるし、間違いなくおもしろいものになると思ったので、開催することにしました。コレクションとしてベストとは思いませんが、このショーを見た人の多くが感慨深い思い出に残るショーだったと後々言われました。さらにショー当日、僕は過労で肺炎になってしまい、当日は病院に入院していました。そういった意味でも印象に残っています。

 もうひとつ、コレクションとして気に入っているのはNYでショーをやった2010年秋冬コレクションです。ブランドを凝縮したものになっていると思います。スタイルとして今までと少し違って、大人っぽくになった。MD的にもバランス良くアイテムが揃い、ブランドの世界観も程良く盛り込んだ総合的に完成度が高いコレクションだったと思います。これまで、ビジネスにおいてもクリエーションにおいて、間違った方向にきていないと確信したコレクションです。

-10年間で得た教訓と今若手に伝えたいこと

 自分のなかに秘めた想いが10年間続けてこられたすべての原点と言えるでしょうね。

 ブランドを始めた当初、とにかく若さとエネルギーに満ちあふれていて野望もあった。長年、非常によいチームでやってこられたのも大きな要因です。身の丈にあったビジネスの規模とクリエーションのバランスを失うことがなかったので、今こうやって10年を迎えられたのではないでしょうか。学生時代は、クリエイティブなことは沢山学んだけれど、ビジネスについて教えて貰わなかった。ですから、常に現場で学ぶことの連続でした。それに加えて、自分のクリエーションを一定化させることも、最初はとても難しかった。今も若手がそういう部分で悩み苦しんでいる姿を見ていると心配ですね。

 僕は9年間、自分の母校でもあるセントマーチンズで教鞭を執っていますがいつも彼らに言っているのは、他のブランドで経験を積むことが将来自分のキャリアにおいてとても重要であるということです。その経験を元に、自分のブランドを立ち上げても遅くはないってね。なにも土台がないなかで、すぐにブランドを立ち上げることのリスクをおしえています。デザイナーという職業は、身も心もクリエーションにつぎ込んでしまいます。とてもか弱い存在なのです。ビジネス面で潰されてしまうことも多々あります。才能は消えて無くなってしまうものではないのですから。ファッション業界は半年ごとに変わっていきますが、自分の意思を超えたものに影響を受けやすい。だからデザイナーは、誰よりもタフでなければいけません。

-日本という存在

 僕のブランドのテイストの日本市場のニーズは非常に通じる物があるようで、長年買い付けてくれているショップがいくつもあります。日本は、とにかく質の高さに対して非常に厳しい目を持っている国ですね。ブランドを始めた当初、自分たちの作るもののクオリティに対して常に指摘を受けました。気になるポイントには、画型をわざわざ書いて印をつけてくれるほど。批評も含め、常に聞く耳をもっていたいと思っているので、これらは非常に良い勉強でした。日本のそういった姿勢がブランドのある一面を育ててくれたといってもいいでしょうね。【岩田奈那】(c)MODE PRESS