【3月7日 AFP】奈良県立医科大学(Nara Medical University)の大崎茂芳(Shigeyoshi Osaki)教授(生体高分子学)がこのほど、クモの糸から美しい音色を響かせるバイオリンの弦を作製したと発表した。

 使ったのは300匹以上のオオジョロウグモの糸、およそ1万本。クモの糸の研究を始めて35年になる大崎教授によれば、微細なクモの糸をより合わせて作った弦は、強くてしなやかだという。

 クモの糸の強さ自体は新しい発見ではなく、これまでの研究で高温や紫外線の影響を受けにくいことなどが示されてきた。大崎教授も、理論上600キロまでの耐荷力があるというロープを作ったことがある。

 普通の糸をより合わせると繊維の間にたくさんの隙間ができるが、クモの糸の場合はより合わせる過程で繊維が円筒状から多角形へと変化し、よりよく結合するという。今回、大崎教授らは繊維の間の隙間を全くなくすことに成功。完成した非常に強い糸は、暮らしの中のどんなものにでも応用できると同教授。

 当初は外科手術用の縫合糸や防弾ベストへの応用を提案していたが、バイオリンへの情熱から弦の作製に至った。科学的に有用なだけでなく、普通の人々に社会的に受け入れてもらえる発明を生み出したかったのだという。

 できあがった弦の音色は「柔らかくて深みがある」と音楽家の間でも評判だ。プロのバイオリン奏者たちからは、この弦を名器ストラディバリウス(Stradivarius)に使っても、大崎教授が持っている10万円程度のバイオリンに張っても、この違いは分かると言われたそうだ。

 研究の詳細は、米国物理学会(American Physical Society)の学会誌「Physical Review Letters」に掲載されている。(c)AFP