【3月10日 AFP】人類の祖先は約1000万年前にゴリラから分化したことは知られているが、現代を生きるわれわれの遺伝子にもゴリラとの共通点が数多くみられるとする画期的な国際研究の結果が7日、発表された。

 研究チームは、雌のニシローランドゴリラ、「カミラ(Kamilah)」のDNAを解読し、1万1000のキー遺伝子についてホモサピエンス(現生人類)のものとチンパンジーのものと比較した。化石証拠からの推定では、ヒトやチンパンジーの系統からゴリラが分岐したのは約1000万年前ごろ、ホモサピエンスとチンパンジーが分化したのは約400万年前ごろとされている。

 チームによると今回の研究はまた、霊長類間の類似性に関するこれまでの考えを覆した。予想通り、ヒトとチンパンジーでは、ほとんどのDNAが一致していた。しかし、ヒトのゲノム(全遺伝情報)の15%は、チンパンジーのものよりもゴリラのDNAに近かった。また、チンパンジーのゲノムでも、その15%はヒトよりゴリラに近かった。

 研究に参加した英遺伝子研究機関ウェルカムトラスト・サンガー研究所(Wellcome Trust Sanger Institute)のクリス・タイラースミス(Chris Tyler-Smith)氏は、研究結果の意義は「共通の祖先を持つ霊長類間が数百万年をかけて進化、分岐してきたことによる違いだけでなく、並行的に起きた変化に類似点があることも示した点だ」と説明する。

 タイラースミス氏によると、ゴリラとヒトには並行した遺伝子変化が数多くみられたが、その1例が聴覚の進化だ。「これまでは、ヒトは聴覚遺伝子が急速に進化したことで、言語が進化したとされてきたが、今回の研究結果はこれに疑問を投げかけるものとなった。ゴリラの聴覚遺伝子もヒトと同様の速度で進化していたことが分かったからだ」

 ゴリラ自体はその後、今から約100万年ほど前にヒガシローランドゴリラとニシローランドゴリラの2亜種に分岐している。

 これまで、霊長類種の分岐は比較的短い期間に突発的に起きたと考えられてきた。しかし今回の研究結果はこれに水を差すもので、霊長類は長い期間をかけ、緩やかな段階を経て分岐していったことを示唆している。ゴリラが他の種から分岐する以前およびゴリラ自体が亜種に分岐する以前に、遺伝子的にわずかに異なる集団間の遺伝子の交雑、いわゆる「遺伝子流動」がかなり起こったと考えられる。チンパンジーとボノボや、現生人類とネアンデルタール(Neanderthal)人の間でも同様の並行性がみられるかもしれないと、チームは述べている。

 数百万年もの時を経て今日まで生き延びてきたゴリラだが、狩猟や生息地の喪失などで、現在はアフリカ中部に取り残された集団がわずかに確認されるだけの絶滅危惧種となっている。

 論文は「こうした偉大な類人猿たちは、その研究を通じて人類の進化過程をわれわれに教えてくれるだけでなく、まだ人類の存在がおぼろげだった時代と現代とをつなぐ存在だ。またそうしたつながりによって、こうした素晴らしい種の保護や保存の重要性を気付かせてもくれる」と訴えている。(c)AFP