【2月29日 AFP】財団法人「日本再建イニシアティブ(Rebuild Japan Initiative FoundationRJIF)」の福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)は28日、東京電力(TEPCO)福島第1原子力発電所の事故直後の状況を検証する報告書を野田佳彦(Yoshihiko Noda)首相に提出した。

 報告書によると、政府は当時、原発での連鎖的な爆発で首都圏から住民を総避難させるという、最悪の事態に備えた大規模な計画を策定していたことが明らかになった。また、ある閣僚は福島原発でメルトダウンが起きれば沿岸の全原発が危機に陥り、周辺住民1300万人が危険にさらされると厳しく指摘したという。

■「作業員撤退なら東電解体」

 400ページ強の報告書は、史上最悪規模の原発事故をめぐる状況を、福島原発事故独立検証委員会の有識者委員会が独立の立場から検証し、まとめたもので、枝野幸男(Yukio Edano)官房長官(当時)が原発事故の連鎖で東京に壊滅的な被害が及ぶことを懸念していたことも記載されている。

 また事故発生当時、東電は福島第1原発からの作業員撤退を主張したが、菅直人(Naoto Kan)首相(当時)がこれを許さなかった。報告書は、もしこの時点で作業員が福島第1原発の冷却作業を放棄し避難していれば、原発は手が付けられない状態に陥り、最悪な結果となっていたと記している。

 有識者委員会の北澤宏一(Koichi Kitazawa)委員長は記者会見で、菅氏が「作業員を撤退させるなら東電を解体する」と東電に迫った事実を明らかにし、東電の要求に屈しなかった菅氏の姿勢が最悪の事態を回避したとの見解を示した。

 つまり、事故直後の福島第1原発で冷却作業に従事し「フクシマ・フィフティ(Fukushima Fifty)」として英雄視された50人は、菅氏が東電の撤退要求を受け入れていれば存在しなかったことになる。

■報告書で明らかになった官邸周辺からの「介入」

 報告書は、著名学者や技術者らで構成された福島原発事故独立検証委員会の有識者委員会が、東日本大震災による福島第1原発事故について、独立した立場からの検証を求める国民の声に応えるため、300人を超える関係者からのヒアリング調査を経て作成した。

 調査の対象は、原発事故直後から数週間後まで、事故対応の中枢でデータや情報へのアクセスが可能だった人物ら。

 報告書によると、菅首相の指示で最悪の事態を想定、大規模の避難計画が策定されたという。避難計画の策定者らは、原発事故の拡大を想定。強制退去の発令対象を福島原発から170キロ圏、自主的退去圏を東京を含む250キロ圏以上とした。 

 菅氏の対応については、一部では危機回避に貢献したものもあったが、微細にまでこだわる傾向が強く、全体としては緊急災害対応の妨げ(介入)となったと結論付けた。 

 その例として報告書は、官邸が原子炉の冷却に真水を用いることにこだわったため、海水による冷却が遅れたことを挙げた。なお有識者らは、海水で原子炉を冷却したことが最悪のシナリオ回避につながったとしている。

 また報告書によれば、菅氏や首相周辺の閣僚らが、政治家と官僚の役割分担を無視し、全てに直接介入する傾向があり、微々たる点まで逐一理解しようとして、結果的に非効率な対応に終始したという。(c)AFP/Kyoko Hasegawa

【参考】日本再建イニシアティブのサイト