【2月27日 AFP】女性の卵巣内から卵子を作る幹細胞を取り出し、卵母細胞に成長させることに成功したと、米マサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital)生殖生物学ビンセントセンター(Vincent Center for Reproductive Biology)のジョナサン・ティリー(Jonathan Tilly)所長率いる研究チームが26日、発表した。なんとしても赤ちゃんが欲しい女性たちに、いつの日か恩恵をもたらす画期的な研究となるかもしれない。

 これまで1人の女性が持つ卵子数は有限と考えられてきた。ティリー氏は「過去50~60年にわたって有力だった定説は、女性は誕生した時点で卵子の『口座残高』を与えられ、それ以降に卵子が作られることはないというものだった。成人した女性たちはやがて卵子を使い切り、更年期に入ると卵巣機能が低下すると考えられてきた」と説明する。

 だが今回、卵子が卵巣の前駆細胞から補充され続けているとの理論によって、この定説が覆されたと研究チームは述べている。

■8年前の研究で激しい批判浴びる

 ティリー氏は8年前、「残高」説の反証を試み、メスのほ乳類が成体となった後も卵子を作る細胞を製造し続けていることを示唆する研究を発表した。

 この理論は激しい批判を浴びた。科学者らは実験の精度を問題視したり、実験用マウスによる研究に過ぎないとして結論を無価値と断じるなどした。

 だがティリー氏は、最新の研究で自説が正しかったことが確認されただけでなく、さらに新たな事実が分かったと話す。

■マウスに移植した卵巣組織で卵子の製造に成功

 今回、研究チームは中国の科学者の業績をもとに、卵母細胞になる幹細胞の側面に位置するタンパク質の「ハンドル」に引っかかる抗体を使ってこの幹細胞を特定し、緑色蛍光タンパク質で幹細胞にタグ付けをした。それをヒトから採取された卵巣組織に注入し、マウスの皮下に移植した。

 14日以内に、この移植部には未成熟の卵母細胞が生じていたが、一部の卵子は緑色蛍光タンパク質で発光しており、幹細胞由来であることが確認された。ティリー氏は、培養皿で卵子が成長する様子を低速度撮影された動画で見たとき、「腕が総毛立った」と述べている。

■将来は卵子作る幹細胞の貯蔵が可能に?

 今後、卵子の生存能力を確かめるなど追加研究が必要だ。また、幹細胞から卵母細胞が生じる際のホルモンその他の機能が果たす役割については、ほとんど分かっていない。

 それでも、この研究結果はとても広範囲に影響を及ぼすだろうとティリー氏は指摘する。「いつか、ヒトの卵子を無限に確保できる日が来るかもしれない。そういった可能性の扉を開く研究だ」

 マサチューセッツ総合病院の声明によると、既にティリー氏率いる研究チームは、卵母細胞を作る幹細胞を冷凍保存して女性が赤ちゃんを欲しくなったときにそこから取り出すという、細胞バンクのアイデアを検討し始めているという。ヒトの卵子は極度に繊細で、冷凍・解凍の際に損傷を受ける可能性が高いが、卵子を作り出す幹細胞についてはこのリスクがないという。

 女性の高齢出産化が進む現代社会だが、過去の研究では出産年齢女性の10人に1人に卵巣の早期老化リスクがあることが示されている。(c)AFP