【2月28日 AFP】157センチメートルのナタリー・ナカセ(Natalie Nakase)さんは、自身の低い身長を理由に大きな夢を諦めることはない。

 日本男子プロリーグで初の女性ヘッドコーチ(HC)を務める米国人のナカセさんは、照準を米プロバスケットボール協会(NBA)に定めている。

 もしナカセさんの夢が実現すれば、NBA初の女性HC、あるいは女性アシスタントコーチ(AC)が誕生することになる。NBAではマイナーリーグで女性が指揮を執ったことはあるものの、最上級リーグで女性コーチがチームを率いた前例はない。

 名門カリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of California at Los AngelesUCLA)でポイントガード(PG)を務めていたナカセさんは、自分次第で男性と同じようなチャンスが女性に与えられるかもしれないということを自覚していると明かし、「NBAプログラムの一員になり、バスケットボールで最高レベルに達すること。これが目標です」と語った。

■HC昇格も厳しい現実

 日本男子プロバスケットボールリーグ、bjリーグ(bj-league)の埼玉ブロンコス(Saitama Broncos)でACを務めていたナカセさんは、2011年11月に解任されたディーン・マーレイ(Dean Murray)氏の後任としてHCに昇格したが、現在は厳しい状況に置かれている。

 7年前にリーグが設立されて以来、3位以上の順位でシーズンを終えたことがないブロンコスは、19日に行われた大阪エヴァッサ(Osaka Evessa)との試合に84-94で敗れ、11-12シーズンの通算成績は9勝23敗となり、イースタンカンファレンス10チーム中8位と低迷している(2月23日時点)。

 しかしながらナカセHCは希望を失っておらず、「上位チームと対戦することで私たちは自信をつけています。まだまだ道のりは長いです」と語っている。

■現役引退と転機

 UCLAで3年間主将を務めた後、かつて存在した米女子バスケットボールリーグ(National Women's Basketball LeagueNWBL)で2シーズンを過ごしたナカセさんは、膝の故障で現役を引退し、2008年からドイツ女子1部リーグで指導者としてのキャリアを歩み始めた。

 ドイツの女子チームでコーチを2年間務めたナカセさんは、2010年に友人の牧ダレン聡(Darin Satoshi Maki)夫妻に会うため、祖父の生まれ故郷である日本を訪れた。

 牧が当時プレーしていた東京アパッチ(Tokyo Apache)のコーチに就任したナカセさんは、NBAのチームで指揮を執った経歴を持つボブ・ヒル(Bob Hill)氏を紹介されると、同氏の下でACを1シーズン務めた。その後、アパッチは活動休止となり、ナカセさんはブロンコスに移籍した。

■恩師から寄せられる期待

 ナカセHCは現在でも、中国に拠点を移したヒル氏と週に1、2回ほど電子メールで連絡を取り合ってるという。

 NBAを夢見るナカセHCについて、ヒル氏は米紙ロサンゼルス・タイムズ(Los Angeles Times)上で「彼女は絶対に負けません。常に逆境を乗り越えてきた」とコメントしている。

 また、UCLAでナカセさんのコーチを務めたキャシー・オリヴィエ(Kathy Olivier)氏は、ナカセHCには男性のリーグで生き残るだけの粘り強さがあると評価している。

 現在ネバダ大学ラスベガス校(University of Nevada, Las Vegas)でコーチを務めるオリヴィエ氏は「ナタリーにしかできません。彼女は小さいですが、203センチメートルの男性選手にも負けない大きな心を持っています」と語っている。

■言葉の壁にナカセHC「問題はない」

 bjリーグのその他のチームと同様、ブロンコスは外国人コーチの指導を受け、元NBA選手のポイントガード(PG)、ケニー・サターフィールド(Kenny Satterfield)や、ジョン・フラワーズ(John Flowers)ら米国人選手の活躍に支えられている。

 しかし、ブロンコスの登録選手名簿に名を連ねる13人中8人の選手が日本語しか話すことができず、ナカセHCも日本語を話すことができない。

 「かなり興奮している時の私は口が悪くなってしまいます。通訳もそれに馴染んでしまっているので、私が解雇されれば、彼も解雇されるでしょうね」と笑みをこぼしたナカセHCは「日本人選手には日本の文化が根付いており、コーチの指示にみんな従ってくれるので気に入っています。彼らとは何の問題もありません」と語った。(c)AFP/Shigemi Sato