【2月18日 AFP】スペイン・マドリード(Madrid)で14日、ロシア生まれの画家シャガール(Marc Chagall)の過去最大規模の回顧展が開幕した。

 故郷のロシア時代から、はつらつとした青年期を送った1920年代のパリ(Paris)時代、1940年代のアメリカ亡命時代、そして1985年にフランスで生涯を閉じるまでに描かれた絵、計150点以上が、ティッセン・ボルネミッサ(Thyssen-Bornemisza)美術館とカハ・マドリード基金(Fundacion Caja Madrid)に展示される。農民や音楽家、サーカスを描いた絵から童話の挿絵まで多岐にわたる作品は、30余りの美術館や個人のコレクションからかき集めた。

 シャガールの孫娘でパリのシャガール委員会(Chagall Committee)の副総裁を務めるメレット・マイヤー(Meret Meyer)さんは、「世界中からこのように多くの傑作が一堂に会すことは極めてまれ。このような機会はもう、数十年先までないでしょう」と語った。「このように滑らかに、自然な形でシャガールを振り返る展覧会は初めて。数々の傑作はもとより、革新的な要素も発見できると思います」

 展覧会の主催者であるティッセン・ボルネミッサ美術館は、1948年に米国を離れるまでの初期の作品を、カハ・マドリード基金は大型作品の多い後期の作品を展示する。

「回顧展の趣旨は、20世紀のスペインに見られるような絵画とは何の関係もない世界を発見しようというものです」と、同展の責任者、ジャン・ルイ・プラット(Jean-Louis Prat)氏は、パブロ・ピカソ(Pablo Picasso)やジョアン・ミロ(Joan Miro)を引き合いに出して説明する。

 シャガールは、パリ時代にキュビズムやフォービズム、抽象絵画に触れたにもかかわらず、「20世紀を通じてこうした運動とは一切関係のない作品を編み出した」点で「型にはまらない画家」だと、プラット氏は言う。

■周囲に流されなかった男

 シャガールが1910年にパリに到着した時、印象派の時代は終わろうとしていた。フォービズムの時代はとっくに過ぎ去り、キュビズムが花開こうとしていた。「彼はこうした前衛美術を素晴らしいと思っていましたが、影響は受けませんでした。確かにこれらの手法は用いましたが、ほんの少しだけです。自分の独自性を守り抜きました」と、プラット氏。

 色調表現が好まれる20世紀のアートの世界にあって、色そのものにこだわり続けたシャガールだが、1930年代のファシズムの台頭とともに暗黒の章が幕を開ける。

 自分のアイデンティティーを再確認するため、農民、ラビ(ユダヤ教の宗教指導者)、音楽家など、ロシアやユダヤの文化を代表するキャラクターたちが住まう世界を創造した。想像力がもたらす詩的で夢のような世界では、牛たちがバイオリンを弾いている。「ダンスに音楽にサーカス。彼が愛した世界です。自分の子供時代を思い起こさせるものですから」と、プラット氏。「彼が詩人たちの友であったことも示したいのです」と続けた。

 シャガールは20世紀初頭にシュールレアリズムの詩人であるギヨーム・アポリネール(Guillaume Apollinaire)、1960年代に詩人のアンドレ・マルロー(Andre Malraux)と親交を持った。50年代にフランスの詩人ジャン・ド・ラ・フォンテーヌ(Jean de la Fontaine)の寓話のために製作した挿絵銅版画の極めて珍しいコレクションも展示されている。

 これまでほとんど知られてこなかった、ロシアの作家ニコライ・ゴーゴリ(Nikolai Gogol)の『死せる魂』や聖書のためのモノクロの挿絵なども、鑑賞することができる。

 だが、「こうした暗いキャラクターは、決して、希望に満ち溢れた爽やかさというメッセージに影を投げかけてはいない」と、マイヤー氏は言う。「これがシャガールの言いたかったことなのではないでしょうか。困難とは見えないものだ、困難とは内側から流れ出てくるように、シンプルに流れるべきものなのだと」

 会期は5月20日まで。(c)AFP/Anna Cuenca