【2月13日 AFP】冷たい川面に漂う流氷をかき分けてカヌーをこぎ、時に氷上を手で押しながら対岸を目指す――先住民の伝統的生活に由来する「アイスカヌーレース(Ice Canoe Race)」は、カナダ・ケベック市(Quebec City)で開催されるウィンター・カーニバルの目玉ともいえる極限スポーツだ。

 1チームは漕手4人と舵手1人からなる。特殊ゴム素材のウェアに身を包み、スタッズブーツをはいた選手たちはケベック市側の岸辺から、半ば凍りついたセントローレンス川(Saint Lawrence River)の上をカヌーを押して走っていく。水面にたどり着くやカヌーに飛び乗り、流氷をパドルや足で押しのけながら、ジグザグうねった航路を描いて対岸を目指す。

 ケベック市周辺のセントローレンス川は、川幅1キロほどもあり、潮の満ち干のため全面凍結しない。その昔、先住民たちは果敢にも小さなカヌーでこの川へと漕ぎ出していった。「当時のタクシーだった」と記した民俗学者リチャード・ラボイ(Richard Lavoie)氏によると、この先住民たちが、カナダに渡ってきたフランス人入植者にカヌーの乗り方を教えたのだという。

 現在、レースに参加する50チームが用いる現代版カヌーは、重量わずか120キロのグラスファイバー(ガラス繊維)製だ。カヌーの底には、氷上を滑りやすくするワックスが塗られている。 

 極寒のなか行われるレースだが、参加選手の1人は「寒いどころか、むしろ暑いくらいだ」と話した。「川に落ちるだろう。で、カヌーによじ登って、また漕ぎ出す。寒さを感じている暇なんかないんだ」

 危険な流氷の間を抜け、強い流れにあがらいつつ、選手たちは開けた水面では全力でパドルをこぐ。氷の塊にぶつかるとカヌーを引き上げて押しながら、とにかくカヌーを前に進めることだけに集中する。対岸に着いたチームは大声で「タッチダウン!」と叫び、そしてまたスタート地点を目指して川を引き返すのだ。

 優秀なチームならば、45分で2往復するという。だが、レースの余りの過酷さに、フィニッシュした選手の中には息も絶え絶えな選手もいれば、悪態をつく選手もいる。

 2005年から毎年参加しているフランスのチームは、キャプテンを務める男性が旅行でケベック州を訪れた際にレースの存在を知ったのだそうだ。フランスでは冬季でも川が凍結することはほとんどないため、チームは車輪付きカヌーを使って陸上で訓練しているという。(c)AFP