【2月11日 AFP】騒がしい22人の男子の中にいる唯1人の女子生徒。パドマ・カンワール・バッティちゃん(15)は、ラジャスタン(Rajasthan)州ジャイサルメール(Jaisalmer)にある人口2500人の村に両親と2人の兄と住む。タール砂漠(Thar Desert)に囲まれたこの辺りは、インドの中でも男女比で圧倒的に女性が少ない地域のひとつだ。

「クラスには他に女子はいません。村にもほんの少ししかいません」。それは何故なのかと尋ねると、パドマちゃんは社会科の教科書に目を落としながらつぶやいた。「女の子は死んじゃうから」

 デブダ(Devda)村やその近隣に暮らすほぼ全員が、古くから続く女児殺しの存在を知っている。インド社会の大半が急速な経済成長と社会の変化をくぐり抜けている一方で、今も残っている慣習による罪だ。パドマちゃんはインドの極端な男子びいきによる犠牲の象徴といえる。

■男子なら喜ぶが、女子なら悲嘆する
 
 2人の男の子の父親であるデブダ村の農民、ラジャン・シンさんは「このあたりでは、男の子が生まれれば大喜びだが、女の子だと悲しむんだ」と語る。そして女児が生まれた場合、多くは24時間以内に殺してしまうのだという。手を下すのは母親か、お産を手伝った女性だと言う。「アヘンを使うか、砂やマスタードの種を詰めた小さな袋を赤ん坊の顔に押し付けるんだと聞く。娘だとお乳をやらないで飢え死にさせる母親も多いそうだ」

 地元の歴史家たちによると、この地域の女児殺しの由来は、何世代も前にラジプート・ヒンズー(Rajput Hindu)の一族が、侵略してきたイスラム教徒と戦争になった際、侵略者による強姦から自分たちの娘を守るために長老たちが決断した「究極の選択」に由来すると言う。

 しかし平和になってもこの慣習は続いた。社会歴史学者のウマシャンカール・チャギ(Umashankar Tyagi)氏は「持参金の負担や無学、貧困などが、最近になってからの女児殺しの理由だ」と説明する。長老らによると、過去100年の間で、デブダ村で結婚した村出身の女性は2人だけだ。

 この状況はインド全体の危機を反映している。英医学専門誌「ランセット(The Lancet)」によると、インドでは毎年約50万人もの女児が中絶されている。その理由は結婚の際に、違法ながら父親が花嫁に持たせなければいけないとされている巨額の持参金や、男子は一家の稼ぎ手とみなされる一方で女子は経済的な重荷とみなされていること、ヒンズー教の儀式にまつわるものまで様々だ。

■貧困地域に追い討ちかける花嫁の持参金

 ラジャスタン州の自治体も警察も、女児殺しが行われていることは知っていると認めた。しかし、個々の家族問題として、介入には難色を示している。ジャイサルメール地区のある警察幹部は、「女児殺しは公然の秘密だが、殺しがあったことを証明することはほとんど不可能だ。死体は砂漠に埋められ、一族の中に亡くなった子のことを聞く者もいなければ、喪に服す者もいない。砂漠全体を掘り返すわけにもいかない」

 デブラ村では女性は家の最も奥の部屋に追いやられ、外出できるのは寺院へ出かける時だけだ。その際も必ず2人ずつで歩き、顔は明るい色のスカーフで覆い、男性の影さえもかからないようにする。

 2人の娘のビムラ・デビ・バッティさんは「女の子が男性の先生に口をきくのは良くないと思うので、娘たちは学校にやっていない」と言う。娘が結婚する時には「金に銀に現金、食器からベッド、テレビ、エアコン、衣料品までを花婿の家族に贈り、村をあげての3日連続の結婚式もやらなければならない」ため、「娘が生まれた時から持参金を貯金しているし、結婚させるために土地も売らないといけないかもしれない」

 2011年の調査でインド全体の子どもの男女比は、男子1000人対女子914人だったが、ジャイサルメール地区では男子1000人対女子868人だった。

 ラジャスタン州では女児殺しをなくそうと、女児が生まれた家庭に銀行口座を開き、そこに州政府が2万5000ルピー(約4万円)を預金する提案がされている。女の子が18歳になった時にその預金を家族に贈呈する仕組みで、女児の命を救おうという取り組みだ。しかし、この奨励策はまだ開始されていない。

 インドの近代化が、これから誕生する女の子たちに明るい未来をもたらすという希望も抱きすぎるわけにはいかない。超音波や血液検査など技術の進化で、出産前に安価に性別検査ができるようになっていることから、都市部郊外の中流層では、女児の中絶が増えてさえいる。(c)AFP/Rupam Jain Nair

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