【2月6日 AFP】世界で最も過密した都市の1つ、メキシコの首都メキシコ市(Mexico City)では乱暴な運転が常に問題となっている。400万台を超す車がひしめき合い、交通事故の死亡者は増加している。

 さらに驚くことに、運転免許取得には試験がなく、ただ免許証を購入しさえすればよい。多くのドライバーが運転免許の試験に合格するため賄賂を贈っていたため、同市は数年前、汚職を減らすため運転免許証試験を廃止した。現在は、有権者カードと住所の証明を提示し、626ペソ(約3800円)を支払うだけで免許証が取得できる。

「以前なら100ペソ(約600円)で免許証が買えた。外部の監査官も汚職をしていたからね」と、自動車保険会社エル・アギラ(El Aguila)の事故担当責任者は語る。

■試験なしで運転免許、交通事故死は年間2万4000人

 メキシコ市では交通事故や、事故一歩手前の危険な出来事は日常茶飯事だ。人口900万人の同市では、複数車線の高速道路を人びとが競争するように走行している。

「もうめちゃくちゃ、アナーキーだよ。規則を守ろうという気が無い。ドライバーは経験的に学ぶんだ。そうして乱暴な運転をするから大事故につながる」と、自動車教習所の責任者は語る。

 保険会社によるとメキシコでは毎年約2万4000人が交通事故で死亡している。これは麻薬をめぐる事件の死者数の倍に上る。

 世界保健機関(World Health OrganizationWHO)に提出された公式統計によれば、メキシコの年間交通事故死者数は世界第8位。ワーストワンはインドで2位は中国だが、両国とも世界で人口が最多レベルの国だ。

 さらに、メキシコの交通事故による実際の死者数は、統計よりもはるかに多い可能性がある。というのも、事故現場での汚職があるからだ。道路利用者の半数以上が保険に入っておらず、事故を起こした人びとの多くは逃走するのだ。

■試験導入に向けて準備中 メキシコ市

 汚職防止対策をした上で、全国規模の運転免許試験が必要だと主張する人は多い。それはメキシコが国連(UN)に約束した2011~20年の10年間に実施する道路交通安全目標にも盛り込まれている。

 だが全国32州の多くで実習試験に対する規制が緩く、一部地域では複数選択式の学科試験があるのみ。15~17歳のドライバーだけは運転試験をとる必要があるのだが、メキシコ市のように義務的なトレーニングが一切ない地域もある。

 メキシコ市の運輸規制部門責任者、フランシス・ピリン(Francis Pirin)氏は現在、実技と学科試験、それに医療検査の義務化に向けた提案を準備中だ。ピリン氏は、国民の半数が貧困下で暮らす同国では、義務化には多額の助成金が必要になると指摘する。

「車で仕事をしている男性がいるとしましょう。この男性の目が悪くなり、免許証を取りに行こうと出かけたときにこう言われる。『まずあなたは医療検査を受けて眼鏡を買う必要があります』。これがどのような問題を引き起こすか分かりますか?こういったことも懸念しているんです」と、ピリン氏は語った。(c)AFP/Sophie Nicholson