【1月26日 AFP】米外交官といえば、自分が専門とする国にうやうやしく敬意を表し、引退後は研究職や企業ポストへ静かに身を退くのが通例だが、「沖縄はゆすりの名人」と発言したと報じられて更迭された元米国務省日本部長ケビン・メア(Kevin Maher)氏(57)は違う。

 日本語で自著『決断できない日本』を執筆し、福島第1原発の事故対応における日本政府のまひ状態を痛烈に批判した。30年にわたって日本で勤務し妻も日本人というメア氏本人も驚いたことに、同書は出版後数週間で10万部以上を売り上げノンフィクション部門のベストセラーとなった。

 2006年以降、交代した首相が6人に上る日本は、政治家が責任を引き受けないことによって機能不全に陥り、それゆえ難しい決断を下せなくなっているというのがメア氏の論旨だ。

■誰が日本をコントロールしているんだ?

 米ワシントンD.C.(Washington D.C.)のシンクタンク「ヘリテージ財団(Heritage Foundation)」で最近行った講演でメア氏は、12月に日本政府が原発は安定したとして出した「事故収束宣言」に異を唱え、「安定などしていない。東京は安全だが、福島第1(原発)の状況は相当悪い」と述べて一蹴した。

 メア氏は米国で学生を前に行った講演で「沖縄はゆすりの名人」などと発言したと日本のメディアに報じられ、米国務省日本部長のポストを更迭されたが、その翌日に東日本大震災が発生。その後1か月留任して、米国の対日支援タスクフォース調整官を務めた。

 講演でメア氏は、次々と明らかになっていった原発事故の危機に、米政府の舞台裏は戦々恐々としていたと語った。そして当時の菅直人(Naoto Kan)首相は責任を回避し、問題を東京電力(Tokyo Electric Power Co.TEPCO)に転嫁しようとしたと非難した。「タスクフォースを率いながら『いったい、誰が日本をコントロールしているんだ』と何度も思った。政府は何もしていない。菅氏はヘリで視察に行き、邪魔をし、帰ってきた」

 破壊された原発の上空からたった1機のヘリコプターが水を撒いているテレビの画面を、メア氏はぞっとした思いで見ていたという。「これが日本が尽くせる最善の手段なのか?――正直、何があったかといえば、米政府は駐米日本大使を呼びつけ、何をしているんだ、事態をもっと深刻に捉えるべきだと警告したのだ。何が起きるか予測はつかない、と」

 東京は結果的に危険な状況にはならなかったが、米政府は一時、首都圏に住む約10万人の米国人を避難させるべきかどうかも検討していた、とメア氏は語った。

■昔は引責、今は責任回避が日本のカルチャー

 国務省日本部長を更迭された経緯については「過去のことだ」と述べた。現在はコンサルタントを行っていて不自由はないと言う。

 しかし更迭の決定の影には、ジム・スタインバーグ(Jim Steinberg)国務副長官(当時)とジョン・ルース(John Roos)駐日米大使がいたと非難した。「彼らはこの件について、ただ報道から消えて欲しかったのだ。だから、報道内容が真実かどうかを確かめるよりも、私をただポストから退けるほうが最適だと判断したのだ」

 日本に対する厳しい批判の一方で、多くの最近の米高官と同様にメア氏は、消費税引き上げや米国が後押しする環太平洋連携協定(Trans-Pacific PartnershipTPP)への参加を推進する野田政権に対しては明るい材料を見出している。

 また、『決断できない日本』への反発がほとんどない点に関しては、昔の日本はうまく機能していて、今こそその伝統に立ち返る必要があるというメッセージが、反感を持ち得た読者層にも受け入れられたと考えている。「私たちがかつて持っていた1980年代の(日本の)イメージは、日本企業で何かもし不祥事が起きたら会長が切腹するんじゃないかと心配するといったものだった。それが自分の犯したミスではなくても、彼は責任を取る、というイメージだ。しかし、今の日本では逆さまになってしまった」

 本の販促のため沖縄を訪れた際の驚きも振り返った。「抗議デモに集まったのは4人だけだった。在沖縄総領事だったときには、いつでも40人はいたのに」 (c)AFP/Shaun Tandon