【1月24日 AFP】ヒト胚性幹細胞(ES細胞)を使用した世界初の臨床試験(治験)で、黄斑変性症により失明しかかっている被験者2人の症状を改善でき、副作用もなかったとする研究が、23日の英医学専門誌「ランセット(The Lancet)」に発表された。

 新薬または新しい治療法の治験は、通常3つのフェーズに分かれている。フェーズ1では安全性、フェーズ2では治療効果が確認され、最後のフェーズ3では多数の患者で安全性と効果を確認する。

 今回発表されたのは、米バイオ企業のアドバンスト・セル・テクノロジー(Advanced Cell TechnologyACT)が米国で行ったフェーズ1の治験結果。有望な結果が示されたため、23日には欧州初のES細胞を使った網膜治療の治験が始まった。

■治験の経過

 初期胚に含まれるES細胞は極めて高い多能性を持ち、体のどんな組織にも分化することができる。病気や事故で失った組織をES細胞由来の組織で代替できる可能性への期待が高まっているが、困難な問題が立ちはだかっている。

 まず、他者のES細胞が免疫反応を誘発し、拒絶反応やがんを引き起こすのではないかという生物学的な問題がある。また、ES細胞の作製がヒト胚の破壊を伴うことから、人命を奪うに等しいのではないかという倫理的な問題もある。

 ACTは、生物学的問題への対処のため、強い免疫反応を示さないいわゆる「免疫学的特権部位」である目にES細胞を用いることにした。

 治験では、加齢黄斑変性症の70代女性患者と黄班変性症の一種であるスタルガルト病の50代女性患者に、網膜色素上皮層の代替細胞に分化させたES細胞約5万個を移植した。

 その後6週間は、免疫系が移植した細胞を攻撃しないようにするための治療を施したが、治療の程度は徐々に減らしていった。

 移植から4か月後、2人にはがんの兆候も拒絶反応もその他の安全性の問題も見られず、視力もわずかながら取り戻した。

 70代女性の方は移植前、視力表で21文字が判読できたが、移植から2週間後に33文字に増加し、その後28文字で安定するようになった。

 スタルガルト病を発症する前はグラフィックアーティストだったという50代女性は、移植前には手の動きを判別できる程度だったが、移植後は指の1本1本が見えるようになった。その後は、パソコンを使ったり、腕時計で時間を確認したり、針に糸を通すことまでできるようになったと、本人から知らされたという。(c)AFP