【1月19日 AFP】「寒くて凍えそうだよ!」――韓国・ソウル(Seoul)にある高級ホテルで、シェフのビョン・サンウォンさん(26)は奥歯をかみ締め、足踏みしながら憤慨する。「厨房もレストランも寒すぎだ。下着をもう1枚着込んでカイロを持っていないと、仕事もできやしない」
 
 1月の韓国は、平均最低気温が氷点下6~7度、時には氷点下15度まで冷え込むことさえある厳寒の季節だ。だが、今年の冬、韓国の人々は室内でも厳しい寒さから逃れられずにいる。

■「エアコン設定20度以下」の制限令

 韓国では前年9月、異例の残暑で冷房の利用が急増し電力需給が逼迫(ひっぱく)したために電力会社が送電を止め、大規模停電が発生。政府は、暖房による電力需要増が見込まれる冬季に停電が再発することを懸念し、前年12月5日から今年2月29日まで、室内温度を制限する電力使用規制を導入した。

 温度設定の上限は、政府庁舎で18度以下、その他の商業ビルや企業オフィスでは20度以下。違反者には50万ウォン(約3万4000円)~最高300万ウォン(約20万円)の罰金が科せられる。

 規制を導入した知識経済部(省)のキム・ジョンデ(Kim Jeong-Dae)氏は、「職場が寒すぎて辛いとの苦情は承知しているが、他に手はない」と述べ、発電所の増設が難しい以上、電力不足に陥らないためには規制は仕方がないと説明した。

■厳しい巡回チェック、手袋して仕事

 知識経済部の職員が温度計を手に各店舗や企業オフィスを定期的に巡回し、室温をチェックする。

 韓国放送公社(KBS)に勤めるイ・ヘウさん(24)は、オフィス内では皆、上着を着てマフラーを巻き、手袋をして仕事をしていると話す。「警備員が温度をチェックしに来るので、部屋を暖かくしたくてもできない。政府が決めたことだし、どうしようもない」とあきらめ顔だ。

 冒頭で紹介したビョンさんのレストランでも、スタッフたちは客に分からないように毛布を巻いたり、ポケットにカイロをしのばせて耐えているという。「節電は良いことだが、寒すぎるようでは駄目だ。仕事の能率も下がってしまう」。さらに、なす術もないのに客から室温を上げろと文句を言われる時は最悪だと、ビョンさんはAFPに訴えた。

■通販で「あったかグッズ」大人気

 一方で、寒い職場に耐えることを多くの市民に強いる政府規制に、ほくほく顔な人たちもいる。ネット通販などで「あったかグッズ」が飛ぶように売れているのだ。

 大手通販サイトでは、規制が導入された12月初旬からわずか1か月で前年比2倍の1万6000セットの下着が売れた。カイロや毛布の売り上げも通常の20%以上増えている。

 韓国の電力不足は、原発停止が原因だった日本とは異なり、歴代政権が電気料金を現実的な価格に値上げするのを怠ってきたことが原因だと、有識者らは指摘している。国民からの苦情は高まるばかりだが、韓国政府には当面、規制を撤回する気はないようだ。(c)AFP/Nam You-Sun

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