【1月17日 senken h】1926年の開学以来、日本の服飾教育を確立し、モード創出の先導者としてファッション界に多くの優れた人材を送り出してきた杉野学園が、12年4月に杉野服飾大学大学院を開設。1学年10人の2年課程で、無から芸術作品を創(つく)り出す「造形作家」の育成を目指している。さまざまな課題に直面しているこの時代に大学院を新設する理由とは。

 杉野服飾大学学長の中村賢二郎さん、杉野服飾大学大学院・美術造形分野教授の瀬古 徹さん、杉野服飾大学大学院・服飾造形分野教授の北折貴子さんに聞いた。

◆──大学院開設の理由をお聞かせ下さい。

 中村 学部での教育は大きな成果を上げていると思いますが、21世紀を見据えるとさらに高いレベルのクリエーター育成が課題になってきます。これまでの服作りの路線は、ファッション産業向けの工業用パターンをベースにしたモノ作り。世界に通用するクリエーターになるためには、無から衣服を創造できる芸術的な創作力と本当の造形力を身に着けなければなりません。一旦学部レベルでのパターンから離れ、衣を題材とした美術造形研究によって造形力を鍛えること。この大学院が目指すのは、単なるデザイナーではなく、海外で通用する「衣服の造形作家」の育成です。

◆──具体的な教育内容は。

 瀬古 学生が多くの先生の中を縫ってさまざまな体験をし、自分に必要なものを見つけてふくらませていけるよう、すべての科目が必修科目になっています。とくに前期は服飾の学校でありながら、着られる服を作ることから少し離れ、形態が平面から立体になるプロセスや、具体的なイメージの中に構造を探したりと、造形をピュアな状態で研究する科目を設定。服飾造形と美術造形の先生が組んで金属や木材を使用するなど、これまでの感覚を揺さぶることも行います。また、己の中から発したものでなければオリジナルの造形は成り立ちません。デザインではなくクリエートの発想を芽生えさせ、自分と向き合うような科目も設定しています。2年生からは美大と同じように、自分でスケジュールを立てて制作に取り組みます。

◆──美術造形と衣服造形を本当の意味で融合させた、新しい試みの大学院ですね。

 瀬古 本学が長い歴史の中で取り組んできたことは、衣服と体の関わりであり、「衣」とは生身の人間と関連性を持った造形物であるという観点です。大学院での教育を美術のレベルにまで落とし込む理由は、時代の大きな波に飲まれることが前提のマーケット優先のデザインではなく、そこから少しだけ距離を置いた所での普遍的なモノ作りができないかと考えるからです。「つくりたい」という衝動や思いを大事にしながら、客観的な目で造形表現を鍛え、最終的にはオリジナルの「衣」の造形を求め進んで行ってもらいたいです。

 北折 日本のシステム化された服飾教育は、全員に同じ事を教える点では優れていますが、感性を高めるという部分では足りないと感じています。テキスタイルや技術面で日本は海外から注目されていますが、持っている資質では十分勝負できるのに、表現力において差が付いています。クリエートの部分を強化して、感性を開花させるような教育ができればと思っています。

◆──未来のクリエーターにメッセージを。

 中村 新校舎の4階を学びの場に用意しました。採光や壁面塗装など、美術造形に適した仕様の演習室も備えています。21世紀の新しい日本の服飾がここから生まれると思っていますので、充実の設備と環境の中、新たな美の創造に取り組んでもらいたい。多くの皆さんがこの世界に飛び込んでくれることを期待しています。

■ショーや展示会ができるホールも誕生

 12年完成の新校舎は、4階の大学院専用施設だけでなく、最新の音響・映像設備を導入した大小2つの「Sugino Hall」が併設されている。1階のエントランスホールと小ホール、調光室を備えた2階・3階吹き抜けの大ホールは、5月11日以降レンタルも可能。大規模なファッションショーや展示会、小規模な発表会まで、幅広い用途に使うことができる。若手クリエーター必須のホールだ。

■トップクラスのファッションコンテストで3年連続グランプリ!

 1984年にオンワード樫山が創設した「オンワードファッション大賞」が前身の「Tokyo新人デザイナーファッション大賞」は、日本トップクラスのファッションコンテストだ。11年11月8日に開催された公開ファッションショー形式の最終審査会では、同年3月に杉野服飾大学専攻科を修了した富原吏輝さんが大賞を受賞。なんと杉野服飾大学生が3年連続でグランプリ受賞という快挙を成し遂げた。また、「神戸ファッションコンテスト」でも3年連続で特選受賞。中村賢二郎学長は「地道な教育活動の値打ちが立証された」と話している。

●2009年/糀 泰佑さん
受賞歴多数。10年同校を卒業後渡英し、ヨーロッパのファッションに影響を受ける。ロンドンのコレクションブランドでのインターンを経て、帰国後に「TAISUKE KOHJI」を立ち上げ、現在は東京をベースに「コレクション」「アナザー」の2ラインを展開。エッジの利いたデザインと、細部までこだわり抜いたディテールや素材使い、面白い発想や切り口のコンセプトで、新しい時代のクリエーションを発信。まもなく「MAISON online shop」にて「numerals TAISUKE KOHJI」の商品を展開予定。
<公式サイト>

●2010年/三浦佑也さん
11年に大学卒業後、海外のファッションと文化を直接体感するため、モードの中心であるフランス・パリへ短期留学。実際にオートクチュールのショーを見たり、美術館を訪ねたりと、現地の人と触れ合うことで日本とは異なる何かを感じ、創作イメージを数多く得る。帰国後は、スタイリストからの依頼を受けCMや雑誌の衣装などを制作するかたわら、パリで得たイメージや自分の考えを元に、自分自身のブランド設立に向けて新作を制作中。

●2011年/富原吏輝さん
10年3月杉野服飾大学モードクリエーションコースを卒業後、アンリアレイジでのインターンシップを経て、11年3月同校ファッションデザイン専攻科を修了。三宅デザイン事務所でアルバイトをした後、「Tokyo新人デザイナーファッション大賞」大賞を受賞。次いで「神戸ファッションコンテスト2011」で特選に選出され、イギリスに留学する。12年のイギリス・ノッテンガム芸術大学留学に向け、準備を進めている。

【大学院入試インフォメーション】
<公式サイト>
願書受付(Ⅱ期):2月13~22日、面接日:3月3日
問い合わせ先:入試広報課 TEL 03・3491・8152
(c)senken h / text : 加藤陽美

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