【12月30日 AFP】韓国ソウル(Seoul)北部の、ある小さな商店を訪れた人は、カーキ色のジャンプスーツにサングラス姿で小太りの店主の顔をまじまじと見つめずにはいられない。店主の金永植(キム・ヨンシク、Kim Young-Sik)さん(61)は、北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル、Kim Jong-Il)総書記のそっくりさんなのだ。

 金総書記が17日に死去してから、金さんは自分の一部も死んだように感じている。そっくりさんとして、日本のテレビ番組や中東のチョコレートCMに出演したこともある金さんだが、輝かしいキャリアに終わりを告げる時がきたと感じている。「まるで自分の一部が死んだみたいに、心が空っぽだ。死んでからもっと有名になる人もいるよと慰めてくれる人もいるけど、金総書記は違うと思う」

 金さんが総書記の真似を始めたのは、シャワーを浴びて縮れた髪を見た知人から「金正日にそっくりだ!」と言われたことがきっかけだった。 

 その後、金さんは1995年の韓国映画『ムクゲノ花ガ咲キマシタ(The Rose of Sharon Blooms Again)』に金総書記役で出演したことで一気にブレイク。ジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)米大統領やウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)露大統領ら世界要人のそっくりさんらと肩を並べる有名人になった。

 さらに、当時の金大中(キム・デジュン、Kim Dae-Jung)大統領が北朝鮮に融和的な「太陽政策」を採用した1990年代後半ごろから金さんの知名度も上がり、さまざまなテレビ番組から出演依頼の声がかかった。

 だが、自国民を飢えさせ、数万人を収容所にぶちこみ、核実験を行うような指導者の役を演じることは常に快適とは限らない。「この独裁者」などとののしられることもあったという。

■そっくりさんの世襲はならず

 金総書記にそっくりであり続けるためには、それなりの努力も必要だ。

 ヘアスタイルをまねるため3か月に1度パーマをかけ、本物の総書記の外見上のわずかな変化にも対応する。2008年に金総書記が脳卒中で倒れた後には、ダイエットまでして体重を減らした。総書記が若かった頃はヘアスプレーを使って髪型を似せていたが、総書記の髪の毛が薄くなってからは何もする必要がなくなったという。

 金さんが最も残念に思っているのは、生きている間に金総書記に会えなかったことだ。「金総書記はある意味で偉大な男だった。独裁者ではあったが、唯一無二の国を作り上げた。他の誰にあんなことができたと思う?」

 金総書記亡き後、世界最後の「共産主義王朝」と言われる北朝鮮は、三男の金正恩(キム・ジョンウン、Kim Jong-Un)氏に引き継がれた。金さんも、そっくりさんの役目を若い世代に譲る時期が来たと考えている。

「金総書記のそっくりさんをもっと続けていたい。だが、いま皆が探しているのは正恩氏のそっくりさんだ。ひょっとして私の息子が正恩に似ていないかと聞かれるが、残念ながら似ていないんだ。もし似ていたら、とっくにオーディションに出させているよ」と、金さんは寂しげに語った。(c)AFP/Daniel Rook

この記事の写真ギャラリーを見る

【動画】取材を受けた金永植さん(YouTube/AFPBB News公式チャンネル)