【12月27日 AFP】4日に投開票されたロシア下院選をめぐり、政権側の不正を糾弾する抗議行動が最初にロシア全土を揺るがした際、国営テレビの報道が空白状態だった一方で、抗議を報じた民間放送があった。

 ロシアの民間TV局ドーシチ(Dozhd)は「われわれを変えた選挙」と銘打ち、番組の合間に抗議する若者たちの映像を流し、抗議プラカードの作り方や見せ方に関する特集を組んだ。抗議の始めの1週間で視聴者は5倍に増えた。

 2010年4月に創設されたドーシチは当初インターネット放送だけを行っていたが、衛星放送事業者を通じて徐々に800万世帯まで視聴世帯を増やした。「テレビにうんざりした人のためのテレビを作るのが目標。テレビセットを持っていないことを誇りにしている人のためのチャンネルだ」と、番組デスクのMikhail Zygar氏は語る。普通のチャンネルを見ない視聴者が求めているのは、生放送や分析番組、政治討論だという。ドーシチは野党側の局ではない。「野党も統一ロシア(与党)も招く。番組作りとはそうあるべきだ」

 しかし、国営テレビとドーシチが大きく一線を画しているのは明らかだ。そして次第に増しているドーシチの影響力は、政治的動揺が続く中でリスク要素かもしれない。

 モスクワ中心部の流行発信地にあるドーシチ本社はまるで広告代理店かファッション雑誌社のようだ。元チョコレート工場を改造した社内に足を踏み入れると、ショッキングピンクの巨大目覚まし時計や、グリーンの水玉模様の紙でできた「レーニン像」などが目に入る。

 スタジオに立つ若い司会者の後ろでは、もっとカジュアルに見えるようにとアシスタントが、彼のジーンズからTシャツのすそを引き出している。およそ15分後、選挙の不正について盛んに議論が交わされ始めた。出演者はリベラル派の野党政治家たち。国営が大半のロシアの主流メディアとは対極をなす光景だ。

「生放送をするのは、うちの局だけ。Rossiya(国営テレビ)にも生放送をうたっている番組はあるが、実際は録画だ」とZygar氏は言う。「われわれはロシアを普通の、快適な、自由で民主的な国にしたいんだ」

 テレビ評論家のAnna Kachkayeva氏によると、ドーシチの視聴者は大まかに言って、ロシアで増えているインターネットを使う若者たちだ。「保守的ではないインターネットの自由と一緒に育った人たちに今の言葉で語りかけている」

 以前はドミトリー・メドべージェフ(Dmitry Medvedev)大統領も、ドーシチのファンだった。5月には近くで行われた会議後、同局を訪れ、40分間かけて局内を見学した。Zygar氏はその時の様子をこう語る。「彼は裏玄関から入ってきた。最初に目にしたのは、(服役中の石油富豪)ミハイル・ホドルコフスキー(Mikhail Khodorkovsky)ユコス(Yukos)元社長がキッチンに立っている特大ポスターだ。ずっとそこにあったし、わざわざどかすのは、ばかばかしいと思った。彼(メドべージェフ大統領)は笑みを浮かべて『ここに来たのは正解だったな』と言った。どういう意味でそう言ったのかは分からないが」

 ツイッター(Twitter)でドーシチをフォローもしていたメドべージェフ大統領だが、下院選後の抗議行動の報道後、フォローのリストからドーシチを抜いた。このことはインターネット通のドーシチの視聴者たちに笑いものにされたが、業界人の間では懸念の声もあがっている。

 露紙コメルサント(Kommersant)でメディア批評を書くアリナ・ボロディナ(Arina Borodina)氏は「彼らは危険を冒している」と警告する。「下院選以来、ドーシチは非常に人気が出て、視聴者の信頼も獲得している。(ドーシチに)いつか何か起きるのではないかと心配だ。生放送は常にリスクがある。特に選挙の時期や政治行動が盛んな時には。今がまさにその時だ」。テレビ局が全体像を映し出すことを、ロシアの「当局は心底、好まない」

(c)AFP/Maria Antonova