【12月19日 AFP】中国南部・広東(Guangdong)省烏坎(Wukan)村の住民が公然と共産党当局に反旗を翻した事件は、世代交代を控えた中国共産党にとって社会不安が大きな課題であることを如実に知らしめた。

 当局に数十年にわたって土地を接収され続けてきた同村の住民は怒りを爆発させ、地元共産党幹部や警察官を村から追放し、自治組織の代表者を選出した。同村の抗議行動は、政治腐敗から格差拡大まで中国にはびこる不公正に対し、市民の怒りが高まっていることを浮き彫りにした。

■経済成長に陰り、中流台頭も影響

 専門家らは、経済成長が鈍化する中国で、こうした市民の怒りが党指導部の悩みの種となりつつあると指摘する。「指導部が安定を維持してこれたのは、経済成長のおかげだ。成長が止まれば、社会不安は広がるだろう」と、香港中文大学(Chinese University of Hong Kong)のウィリー・ラム(Willy Lam)教授(歴史学)は語る。

 烏坎村のある広東省は中国製造業の心臓で、国内でも豊かな地域だ。しかし、輸出減速を背景に工場労働者の賃金カットが進み、この数か月で次々とストライキが起きている。11月には、欧米の靴ブランドの委託工場で従業員7000人以上が人員削減と賃金カットに抗議してストライキに突入し、警官隊と衝突した。

 北東部の遼寧(Liaoning)省大連(Dalian)でも今年、住民が化学工場の移転を求めて大規模なデモを行い、当局が工場閉鎖を決定する事態となったが、これも中国で台頭する中流階級が当局への抵抗を厭わない傾向を示す一例だと専門家らは言う。

■ネットの威力に警戒

 ラム教授は、次のように説明する。「『アラブの春(Arab Spring)』や1980年代のポーランドの『連帯(Solidarity)』運動のような全国規模の運動は、中国ではまだ起きていない。したがって今のところ共産党は全面的な抵抗にさらされているわけではない。とはいえ、最近の個別の抗議行動もやはり(社会の)不安定さの実態を表す出来事であり、だからこそ北京当局は多数のユーザーを抱える『新浪微博(Sina Weibo)』に実名登録を義務付けたのだ」

 中国版ツイッターともいえるマイクロブログ「新浪微博」は、最近の抗議行動の多くで組織化や広報の重要ツールとなってきた。当局は厳しい検閲を化し次々とアカウントを閉鎖する措置を取っているが、ユーザーたちはそれに匹敵するスピードで新アカウントを取得し、発信を続けている。

「指導者交代を控えた当局は、ツイッターやフェイスブック(Facebook)の中国版が持つ組織化力を認識している」とラム教授は述べた。

 中国の胡錦濤(Hu Jintao)国家主席は来年2期目を終え、次期指導者――習近平(Xi Jinping)国家副主席と目されている――に権力を委譲する。新体制発足は13年3月で、温家宝(Wen Jiabao)首相も辞任し、共産党指導部も10年ぶりに刷新される。

 こうした中、共産党は社会の調和と安定を極めて重視しており、党最大の関心事は社会不安を収束させるかどうかにあると、専門家らは指摘している。(c)AFP/Jonathan Landreth

【関連記事】
警察が漁村を「兵糧攻め」、地元当局の不正に抗議続ける
中国・烏坎村の支援デモ、村外で初 ネットで知り共感
北京市、中国版ツイッターへの実名登録を義務化