【12月20日 AFP】米国立衛生研究所(US National Institutes of HealthNIH)は15日、チンパンジーを使った動物実験を厳しく制限すべきだとする米国医学研究所(Institute of MedicineIOM)の勧告を受け入れ、政府が資金援助した医学実験すべてを早急に点検することを明らかにした。

 医療専門家で構成され、健康に関する事案で政策立案者などへの勧告も行っているIOMは今回、チンパンジーを使った動物実験について、全面禁止こそ求めなかったものの、以下のような制限を設けるよう勧告した。

― 倫理的観点から人体実験が実施できず、実験に利用できる動物がチンパンジーしかいない場合で、実験を中断すると命にかかわる病気の治療方法の改善が見込めないときはチンパンジーを使った実験の継続を認める。

― チンパンジーを実験に使用するのは、比較ゲノミクス、行動の研究、精神衛生、感情、認知などの分野で、動物実験以外の手段では得られないような知見が得られる場合に限る。

― 実験の際には、チンパンジーをなるべく傷つけず、肉体的・精神的苦痛を最小限にする方法をとる。

 IOMは報告書で、「チンパンジーはC型肝炎ワクチンの開発や比較ゲノム研究、行動研究などで依然として必要な場合もある」と指摘する一方で、「現在チンパンジーを使って行われている生物医学実験の大半が不要なものだ」とした。

■チンパンジー使った実験はすでに減少

 米国立衛生研究所のフランシス・コリンズ(Francis Collins)所長は、勧告の受け入れを表明し、現在進行中のプロジェクトを早急に点検して勧告された内容に適合していないプロジェクトは段階的に廃止すると述べるとともに、勧告を実施するプロセスが軌道に乗るまではチンパンジーを使った実験への新規の資金提供を凍結する方針を明らかにした。

 米国には5月現在で937頭の実験用チンパンジーがいる。うち436頭は国が所有し、残りは民間企業が所有・使用している。

 米国では近年、知能が高く絶滅も危惧されているチンパンジーを実験で使用することの是非をめぐる論争が激しさを増しているが、政府はエイズワクチン、C型肝炎、マラリア、呼吸器系ウイルス、脳、行動などの医学実験での使用を引き続き認めてきた。動物愛護団体は、実験用チンパンジーの飼育と使用に国は年間3000万ドル(約23億円)を費やしており、この予算をもっと望ましい手法を使った実験に振り向けるべきだと主張する。

■欧州は2010年に正式に禁止

 動物実験を行う科学者で作る団体、全米生物医学研究協会(National Association for Biomedical Research)は、「チンパンジーはA型肝炎とB型肝炎のワクチンの開発など、科学と医学に計り知れない貢献をしてきた」と振り返る。しかしチンパンジーを使った実験は、科学の進歩と別の研究手法の登場により、減ってきているという。

 実際、2011年に米国立衛生研究所の支援のもとで進行中の9万4000件のプロジェクトのうち、チンパンジーを使用するものは53件に過ぎない。国が支援する研究のわずか0.056%ということになる。

 IOMは、米国立衛生研究所が1995年に実験用チンパンジーの繁殖を一時停止する措置を取ったこともあり、国が所有する実験用チンパンジーの数は2037年までにはゼロに近くなると予想している。

 なお、欧州連合(EU)の場合、チンパンジーを使った動物実験は1999年以来行われておらず、2010年には類人猿(チンパンジー、ゴリラ、オランウータンなど)を実験に使用することが正式に禁止されている。(c)AFP/Kerry Sheridan