【12月13日 AFP】ハチ同士がコミュニケーションをとるために踊る「ダンス」は、脳内のシグナルによく似ている─地球上の生物がどのように意志決定をしているかに光をあてた研究結果が8日、米科学誌サイエンス(Science)の電子版「サイエンス・エクスプレス(Science Express)」に発表された。

 米コーネル大(Cornell University)のトーマス・シーリー(Thomas Seeley)氏が率いた米英の共同チームは、「神経系内の意志決定メカニズムと昆虫の社会は驚くほど似ている」と報告している。

 サルを使ったこれまでの研究によると、何か決定すべきことがあるとき、人間の脳内では多くのニューロンが活発化する。その後、一部のニューロンが他のニューロンを抑制し、ニューロンが最も『否定』の信号を発しなかった選択肢が選ばれる。

 ミツバチ同士が巣を作る場所を「相談」する際に、このニューロンの働きと似た行動をとることが今回の研究で示された。

■発見に喜ぶ仲間を抑制

 チームは米メーン(Maine)州にある島にミツバチの群れを放して実験した。この島には自然の中で巣を作れそうな場所がなく、代わりにハチたちが巣作りをしそうな同じ形の箱2個を置いた。

 撮影されたビデオに映っていたのは、まず「探索バチ」と呼ばれる偵察係だった。巣作りができる可能性のある箱に寄って行った探索バチたちは、「尻振りダンス」を踊り、自分たちが発見したものを互いに伝え合っていた。また、一部のハチが発信していた、羽音をさせながら短く頭突きをする小さな「停止信号」も録音されていた。

 箱を訪れた探索バチには、2個のうちどちらの箱を訪れたかによってピンクか黄色のいずれかのマークを付けて行動を追跡した。すると、停止信号を出している探索バチはすでに箱を訪れたことのあるハチで、それぞれが見てきた別の箱の情報を交換しあっていた。

 論文の共著者であるカリフォルニア大学リバーサイド校(University of California, Riverside)のP・カーク・ヴィッシャー(P. Kirk Visscher)氏はこう説明している。「ダンスを踊っているハチに探索バチが送っていたのは、『巣の場所の候補はもうひとつあるのだからはしゃぎすぎるな』という、興奮を抑制するメッセージだった。こうした抑制信号は必ずしも敵対的なものではなく、ただ単に『ちょっと待ちなよ。こっちにも検討に値する場所があるんだから、ベストな場所かどうか分からないところに群れ全員で行くにはまだ早いよ』と言っているだけだ」

■統計的に最適な選択肢に絞込む

 巣が過密状態になったハチの群れは女王バチを連れて新しい巣に行く。探索バチだけが巣作りに適した場所を探しに出ては、戻ってきて報告をする。通常は新しい巣を作る場所が見つかるまで、群れの大半は元の巣の近くにとどまっている。

 探索バチは「8の字ダンス」を踊って、自分が見てきた場所について残っていた仲間たちに伝える。ダンスの長さが見つけた場所までの距離を表す。そして、ある場所が良いと報告する探索バチが一定の数に達すると、群れ全体へその場所へ移動する。
 
 巣を作るのに最も適した場所を選ぶことは全てのハチにとって共通の利益であるため、たとえ選択肢が似通ったものであるときでも、このプロセスは群れが決定を下すうえで役に立っていると科学者たちは考えている。「抑制のメッセージによって最終的にひとつの場所に絞り込むことができ、統計学的に最適な意思決定を可能にしている」と報告は述べている。(c)AFP