【11月9日 senken h】長い歴史を持ち、今なお、絹から合繊まで、多様なテキスタイルを生産している福井産地。ここでは「歴史と伝統」「多様性」「技術」の3つに焦点を当てて、その代表とも言える機屋を巡ってみたい。

■歴史と高い技術を誇る織物産地アウトドアからNASAまで
 「福井テキスタイル」を知っていますか? 福井と言われて思い浮かべるのは、お江、越前ガニ、鯖(さば)寿司、そば、恐竜…。いえいえ、テキスタイルもすごい。例えば、アウトドアウエアでよく用いられる「ポリエステル長繊維織物」の多くは福井産。その生産量は全国1位で、330軒もの機屋がひしめき合っている。そして、ただ数が多いだけではないのが福井産地。海外の展示会に出展している機屋もあり、欧州の有名ブランドからも熱い視線を注がれている。他にも、NASA(米・航空宇宙局)が使っている炭素繊維の織物も福井産だ。

 幅広く多くの人がお世話になっている、そんな福井テキスタイルの特徴は歴史と伝統、多様性、そして高い技術だ。現在福井で作られる織物の多くは、ポリエステルやレーヨン、ナイロンなどを原料とする合繊織物だが、そもそも福井は奈良時代から続く絹織物産地で、時代の変化とともに顧客のニーズを聞いてきた。それに応えるべく技術に工夫を凝らし、設備を改造、更新するなどして、今までにない織物を作ってきた。

 他にも綿、ウールなど「織れない素材はない」という。多様性とさらなる可能性を秘めた福井テキスタイル。この魅力を、あなたも一度体験してみては。

1. 歴史と伝統が息づく羽二重織物
 絹といえば、現代日本の礎を築いた重要な輸出品。かつては日本各地に絹織物産地があったが、いまでは数えるほどに。明治時代から続く山直織物はその伝統を今に受け継ぎ、柔らかく、上品な光沢のある絹織物「羽二重」を作っている。じゅばんやスカーフなどに使われる羽二重の特徴は、後練りと呼ばれる製法にある。生糸には、セリシンと呼ばれる接着剤のようなものが付いており、それを織り上げた後で除去するのが後練りだ。織機で高密度に織ったあと、セリシンを除去することで、硬くこわばっていた生地が一気に解き放たれ、柔らかく、肌触りのよい風合いを持つ羽二重へと生まれ変わる。

 織るときにも独特の技術が要る。緯(よこ)糸をあえて水に濡らすことで、織物の密度が増す。「この‘濡れヨコ’の技術が、福井の羽二重のキモなんだ」と代表の山田清実さんは語る。最近では、ポリエステルとの交織や、ダウンジャケットの側地向けに、裏にアクリル樹脂を塗った織物など、カジュアル用途にも使える織物も作っている。歴史と伝統に裏付けられた、技術の進化は続いている。

2. 福井テキスタイルの多様性を垣間見る
 傘やテント、果ては紅茶のティーバックまで、福井で作られる織物はまさに多様性の宝庫。福井県織物工業組合に加盟する335社で、同じ織物を作るところは一つもないというから驚き。そんな中でもひと際異彩を放っているのが、カラミ織物を作っている織工房風美舎だ。

 カラミ織物は、お坊さんが着る法衣の素材と言えば分かりやすいかもしれない。同社が作っているのはまさにその法衣の生地。素材はポリエステルで、レピア式という織機を使い、経(たて)糸を左右に動かしながら織り上げる。「ヨーロッパでこの織物を作っているところはない」(澤田勝代表)という、まさに日本独自の素材だ。

 カラミ織物は重ね合わせた時に、独特のモアレ(まだら模様)が浮かび上がるのも特徴だ。その特性を生かし、自ら雑貨や小物などの商品を開発。「福井産地は、地元の素材を使った最終製品が少ない」と、最近ではカラミ織物をシェードに使った照明を販売している。普通の生地屋さんでは見られない、普段触れることのない素材に出合えるのも福井の魅力に違いない。

3. 豊かなテキスタイルを生み出す確かな技術
 水を通さず、湿気だけを通す透湿防水織物、ストレッチ性能のある高密度織物など、「モノ作りにおける商品開発力は、福井の、ひいては日本の生命線だ」とはケイテーの荒井由泰代表。同社の生産・開発を担当するケイテー・テクシーノではエアジェット織機(空気の力で横糸を通す高速織機)とウォータージェット織機(水鉄砲の原理で水で横糸を通す高速織機)合わせて210台で、スポーツや婦人向けの合繊高密度織物を作っている。すべての織機をコンピューターで管理し、生産状況や、織機が止まったときのミスの要因などを一元化して把握、多品種小ロット生産を実現してきた。

 同社の強みは、仮撚りなどの糸加工を自社でできるところにある。織物には整経や仮撚、織布、染色、後加工、整理などさまざまな工程があり、福井では基本的に分業体制で、それぞれの業者が産地内に揃っているという強みがある。もちろん、こうしたネットワークを活用することも多いが、同社は仮撚り工程を内製化することで、一貫した商品開発を可能にしている。

 もともと、婦人のファッション衣料を得意とし、生地に表情のあるジョーゼットなど強撚糸使いの織物を多く生産してきた同社。「最近ではスポーツ用途の高密度織物を生産することが多い」というが、ファッションシーンとスポーツが融合してきている。生地のタッチなど感性に訴える部分と、スポーツシーンで必要とされる透湿防水などの機能を組み合わせた、新しい織物の生産を日夜進めている。(c)senken h

【関連情報】
福井県織物工業組合 公式サイト
特集:senken h 117