【11月8日 AFP】東アフリカのリフトバレー(Rift Valley)の湖では上空を飛ぶコフラミンゴの群れがおなじみの光景だが、産卵に適しているのはナトロン湖(Lake Natron)だけだ。だが湖岸にソーダ灰(炭酸ナトリウム)工場を建設する計画が再び持ち上がっており、コフラミンゴの行く末が心配されている。

 コフラミンゴはフラミンゴの一種で、絶滅が懸念されている。英国鳥類保護協会(Royal Society for the Protection of Birds)の推定によると、コフラミンゴの全個体数の4分の3が東アフリカに生息している。

 水深が最大でも50センチのナトロン湖は、活火山オルドイニョ・レンガイ(Ol Doinyo Lengai、マサイ語で神の山の意)のそばにある。火山に近いことが、天然ソーダを多く含んでいる理由だ。

 オルドイニョ・レンガイは、ナトロカーボナタイトと呼ばれる岩石質の溶岩を噴き出す世界で唯一の火山だ。ナトロカーボナタイトに由来する天然ソーダがフラミンゴの天敵を遠ざける一方で、フラミンゴは湖の塩田に泥を火山状に盛り上げた小さな巣を作り、通常は1個ほど卵を産む。

■炭酸ナトリウムで経済活性化狙う政府

 タンザニアのジャカヤ・キクウェテ(Jakaya Kikwete)大統領は今年4月、環境への懸念から棚上げされていたソーダ灰工場建設計画を早期に実現に移す必要性を説いた。「わが国の経済を飛躍させる可能性を秘めた計画をこれ以上遅らせる必要はない」と。

 大統領によると、ナトロン湖には、タンザニアを世界一の炭酸ナトリウム産出国にするだけのソーダ灰がある。

 炭酸ナトリウムは、洗剤に含まれる水軟化剤や特定のガラスの製造などで使用される。

 政府は環境保護団体などの圧力を受け、建設予定地を湖岸から数十キロ離れた場所に移動させることを検討しているが、環境保護団体は、ソーダを工場に汲み上げるパイプでさえフラミンゴの繁殖の障害となる恐れがあると主張する。

■「マサイの伝統も失われるかも」

 地元エンガレセロ(Engaresero)村の住民の多くは建設には反対のようだが、観光ガイド協会に務める男性(23)は、「工場がどのような影響を及ぼすかは分からないが、われわれは仕事を欲している。開発、病院、教育も必要だ」と話した。

 ある地元当局者は、各地から労働者が大量に流入してきた場合、マサイ人が人口の95%を占めるこの村の伝統が失われていくかもしれないと、別の懸念を表明した。

■政府の約束には慎重に

 タンザニア国境に近いケニアのソーダ湖、マガディ湖(Lake Magadi)では、既にソーダ灰工場が稼働している。マガディ湖に近いピニニ(Pinyinyi)村に住むNGOコーディネーターのジョセフ・セウリ(Joseph Seuri)氏は、政府の「約束」には慎重になるようにとナトロン湖の地元民に警告を発する。

「マガディ湖の場合、政府は地元民に雇用を約束した。だが、結局は住民たちを追い払い、工場近辺での遊牧も禁止したんだ」(c)AFP/Helen Vesperini