【10月18日 AFP】16日に行われた2011インディカー・シリーズ最終第17戦のレース中、15台が絡む多重クラッシュにより死亡した英国人ドライバーのダン・ウェルドン(Dan Wheldon、33歳)氏は、新たな安全基準の中で行われる2012年シーズンを見届けることはできなかった。

 フォーミュラワン(F1、F1世界選手権)では、1994年の欧州GP(European Grand Prix 1994)でアイルトン・セナ(Ayrton Senna)氏、NASCARでは2001年のデイトナ500(Daytona 500)でデール・アーンハート(Dale Earnhardt)氏が死去して以降、ともに新たな犠牲者は出ていない。

 どちらのカーレースでも、象徴的なドライバーの死亡によって安全に関して大きな変化がもたらされたが、ウェルドン氏が1996年以降のインディカーでは7人目の犠牲者となったことで、同じ変化が起きる可能性が出てきている。

 今シーズン、ウェルドン氏はスポット参戦を重ねながら、2012年シーズンから導入される安全性が特徴の新しいシャシーのテストドライバーを務めていた。

 2012年シーズンのインディカーでは、スピードを抑えるためのダウンフォースの強化、ドライバーの安全をより確保する大きなコックピット、そしてウェルドン氏のマシンに起きたような空中浮遊を防ぐための後輪周りの車体形状の変更が施される。しかし、ウェルドン氏は、新たな基準で行われる新シーズン開幕を前にこの世を去った。

 インディカーでは、レース中に時速約360キロのスピードで3台のマシンが横並びになる。参戦していたドライバーの多くは、今回レースの行われたラスベガス・モーター・スピードウェイ(Las Vegas Motor Speedway)の傾きの厳しいオーバルコースでの高速レースが、クラッシュの原因と考えている。

 スペイン人ドライバーのオリオル・セルビア(Oriol Servia)は、「皆がこのレースにいやな感じを覚えていた。このトラックは傾きが強すぎたんだ。事故が起こることはわかっていた」と語ると、ウェルドン氏のために行われた追悼走行を前にコックピットで涙を流したスコットランド人ドライバーのダリオ・フランキッティ(Dario Franchitti)は、「(レースをするのに)ふさわしいトラックではなかった。逃げ道が無いんだ。一つの小さなミスが重大なんだ」とコメントした。

 F1ではタイヤバリアーやグラベルが設置され、さらに退避エリアが設けられている。また、NASCARの一部のレースでは、スピードを抑えるためのリストリクタープレートが使用されている。一方、インディカーではコースとコンクリートの壁の間に設置された衝撃を吸収するSAFERバリアが設置されている。

 ブラジル人ドライバーのトニー・カナーンは、「やり方を考え直す必要がある。互いに思いやらなければならない。私たちは、命を懸けて競っているんだ」とコメントを残している。(c)AFP

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