【10月17日 AFP】英ロンドン(London)北部ブシー(Bushey)で、アンドリュー・フェアクロー(Andrew Fairclough)さん(41)は19世紀に建てられた小さな教会の扉を開ける。礼拝のためではない。この教会は、フェアクローさんの自宅なのだ。

 賃貸住宅の価格が高騰する英国で、今、革新的な賃貸プランが始まっている。

 ミュージシャンのフェアクローさんは、今年1月からこの教会に暮らしている。アーチ型の天井とステンドグラスの窓の下には、レコード盤やキーボード、ベッド、ソファ、それに卓球台が並ぶ。教会の中は意外なほど暖かい。

 家賃は1か月あたりたった270ポンド(約3万3000円)、欧州で最も家賃の高い都市の郊外としては破格値だ。「家計の面から言えば最高だね。こんな驚きの空間に、こんなに安く住めるなんて。最初はうますぎる話だなと思ったほどだ」と、フェアクローさん。

■貸し手と借り手の利害が一致、「住み込み管理人」

 これは、所有する地所の再開発や売却までの間、物件の管理を誰かに委任したい不動産所有者と、通常の賃貸住宅では予算オーバーで手が出ない人々との利害が一致した事例だ。インフレが進み、住宅市場が冷え込む英国では、賃貸相場が高騰している。ロンドンでは過去1年間に家賃は10%以上も上昇した。こうした中、フェアクローさんのような住み込み管理人「ガーディアン」の人気が高まりつつある。

「低価格で効果的なセキュリティーを提供する手段として、ガーディアンに空きビルなどに住んでもらうんです」と、仲介業者アドホック(Ad Hoc)のダグ・エドワーズ(Doug Edwards)氏は説明した。ガーディアンの紹介費用として週300ポンド(約3万7000円)かかるが、警備会社に管理を依頼するのと比べれば、不動産所有者にとっては8割の経費削減になるという。

 ロンドン市内にも目を見張る物件がいくつかある。たとえば、バッキンガム宮殿(Buckingham Palace)から歩いてすぐ、グリーンパーク(Green Park)を望む総面積300平米のマンションは現在、週200ポンド(約2万4000円)で2人のガーディアンに貸し出されている。

■長期定住がお望みならご用心

 だが、同じ場所に長期間住み続けたい人は、注意が必要だ。ガーディアンの賃貸契約は2か月程度だったり、退去通知が期限の2週間前に届いたりするからだ。

 ライターとごみ収集業を兼業するダニエルさん(26)は、1年で4回引っ越したと話してくれた。だが、転々とするのにも慣れたというダニエルさんは、「いろいろ違う場所を楽しむことができたよ」と前向きだ。

 現在住んでいるのはロンドン中心部のウォーレン・ストリート(Warren Street)にある、かつてオフィスだったという一室。広々としているが、夜にはネオン照明がまぶしく、キッチンはもう1人のガーディアンと共有。ビルにはシャワーが2つしかなく、12人で共用している。

「でも、家賃は週60ポンド(約7300円)だから、全体的に判断すると悪くはないのさ」

■ガーディアンになるには

 ガーディアンになる条件は、まず固定収入があること。ペットと子どもは禁止で、パーティーを開かないと誓約しなければならない。だが、唯一の義務は、建物内で何か問題が発生した際に大家に報告することだけだ。

 当然、ガーディアンになりたがる人は多い。仲介業者「リブインガーディアンズ(Live-in-Guardians)」のアーサー・デューク(Arthur Duke)社長によると、経済情勢が厳しさを増した過去3か月に希望者の数は急増した。職業は医師や看護師、消防隊員、芸術家などさまざまで、多くはマイホーム購入資金を貯蓄するためにガーディアンになることを望んでいるのだという。

 代理店アドホックのエドワーズ氏によれば、どんな物件でも、それこそ学校や老人ホーム、水泳プールでさえ、シャワーなどの基本的な居住設備を追加すれば賃貸可能になるそうだ。(c)AFP/Beatrice Debut