【10月3日 AFP】元中国政府高官の不動産投資家がエコツーリズム・プロジェクトの一環として、アイスランドで300平方キロの広大な土地を購入する計画を立てていることに、北極圏の資源を狙う中国政府が背後にいるのではないかとの疑いの声が現地で上がっている。

 この不動産投資家は、中国国内と世界各地にリゾートや観光施設を所有する中坤集団(Zhongkun Group)の創設者、黄怒波(Huang Nubo)氏。手つかずの自然に魅せられたとして、アイスランドの国有地を含む原野300平方キロを1000万ドル(約7億7000万円)で購入する計画を提示した。総額1億ドル(約77億ドル)を投資して、環境に配慮した上でホテルやゴルフ場などのスポーツ施設、欧州最大の自然保護区を備えた高級リゾートを作りたいと話している。

■北極圏での中国の足掛かりに?

 しかし、氷の融解が進む北極圏では、海底に眠る豊富な石油・ガス資源や、アジアと欧州を結ぶ北極海航路などに注目が集まっており、これが黄氏の土地購入計画の真の理由なのではないかとの見方が出ている。購入した土地を足掛かりに、中国がじかに北極圏の情報を収集できるようになるからだ。

 アイスランドのステファンソン北極研究所(Stefansson Arctic Institute)のエンブラ・オッズドッティル(Embla Eir Oddsdottir)プロジェクト・マネージャーは、「将来的にインフラ拠点の建設・操業に関与する土台を築くため、中国政府が科学、経済、政治などあらゆるレベルで協力関係を強化する手段を模索する可能性は大いにある」と語る。「北極海航路は中国にとって非常に重要だからだ」

 夏季に北極の氷が溶けた場合、上海(Shanghai)と欧州を結ぶ航路は現在より6400キロも短くなる。アイスランド議会のアルニ・トール・シグルドソン(Arni Thor Sigurdsson)外交委員長がAFPの取材に明かしたところによると、アイスランド当局との会合で中国側は、北極海航路の積み出し港としてアイスランドを利用する可能性は「非常に高い」と語ったという。

■狙いは北極圏の原油か

 中国の台頭について研究しているニュージーランド・ビクトリア大学ウェリントン校(Victoria University of Wellington)のマーク・ランテーニュ(Marc Lanteigne)上級講師は、「中国人実業家と中国政府との間には、外部からはよく見えない非常に強い結びつきがある」と指摘する。

 ランテーニュ氏によると、中国は現在、国内で消費する原油の50%以上を輸入しているが、中東依存への懸念から他の調達先を探している。既に中央アジア、カスピ海沿岸、サハラ砂漠以南のアフリカで活発な石油貿易を開始しているが、最大1600億バレルとされる北極圏の埋蔵原油にも注目しているとみられる。

「北極圏での石油開発競争で遅れを取ることを恐れ、中国がこの地域でのプレゼンス強化を図るのは十分にあり得ることだ」(ランテーニュ氏)

■政府は慎重、観光業界は歓迎

 観測筋によれば、今のところ中国政府が黄氏の土地購入を北極圏の資源獲得に利用するというはっきりした兆候はみられない。それでも、アイスランド政府はこの計画に懸念を示している。オグムンドゥル・ヨーナスソン(Ogmundur Jonasson)内相は「高額な買収金額が提示されたから土地を売り出すわけではない」と述べ、提出された書類を注意深く精査する姿勢を示した。

 一方、アイスランド観光局のオロフ・アトラドッティル(Oloef Yr Atladottir)局長は、黄氏の投資計画は「たいへん有益だ」と好意的に評価している。アイスランドでは過剰に肥大した金融業界が2008年の経済危機で崩壊し、観光業が経済の柱になりつつある。世論調査では59.1%が、警戒しながらも土地売却に賛成すると回答した。

 ランテーニュ氏は、黄氏が選んだ土地の立地に注目している。アイスランド北部は石油やガスの探査船の基地となると見込まれているうえ、「北大西洋で中国が戦略的存在感を示せば、欧米政府を動揺させられる」からだ。ただ、現時点では「土地購入に純粋な商取引以上のものである兆候はない」と強調してもいる。(c)AFP/Haukur Holm