【8月29日 AFP】南米パタゴニア(Patagonia)地方の森深くで、ビールのラガー酵母の祖先にあたる野生の酵母(イースト菌)が発見された。

 22日の米科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of SciencesPNAS)に発表された論文の共著者、米ウィスコンシン大学マディソン校(University of Wisconsin at Madison)のクリス・トッド・ヒッティンガー(Chris Todd Hittinger)教授(遺伝学)によると、「何十年もの間、探されていた種。(野生の)どこか別の場所にも存在するかどうかは分からないし、まだ発見もされていない」という。ポルトガル、アルゼンチン、米国の共同チームはこの新種を「Saccharomyces eubayanus」と名づけた。

 中世ドイツのバイエルン地方で誕生したラガービールだが、醸造に使用される酵母は交配種で、その系譜は長年、謎のままだった。祖先の一方は、エールビールの他にワインやパンの製造にも使用される出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)でよく知られている種だ。しかし、もう片方の「パズルのピース」は欠けたままだった。

 リスボン新大学(New University of Lisbon)の研究者たちは、欧州で知られている酵母1000種を丹念に調べたが、相当する種は見つからなかった。

■パタゴニアのブナから発見

 そこで協力を依頼したアルゼンチン科学技術研究委員会(CONICET)のDiego Libkind氏が、パタゴニア地方のブナの葉から、探し求めていた酵母に非常に近い種を発見した。この酵母は、昆虫がブナの葉に卵を産みつけたときにできる「虫こぶ」と呼ばれる、糖分を豊富に含む球根状の節の中で自然繁殖していた。

 Libkind氏は「(虫こぶは)熟しすぎると地面のいたるところに落ち、強烈なエタノール臭のする『じゅうたん』状態になる。これは、新たに発見されたSaccharomyces eubayanusの活発な活動のせいだろう」と説明している。

 コロラド大学医学部(University of Colorado School of Medicine)のチームが、このパタゴニアで発見された酵母のゲノム解析を行ったところ、ラガービールを醸造させる要素とほぼ完璧に一致した。ヒッティンガー教授によると「既知の野生種の酵母とはどれとも異なり、しかしラガー酵母のゲノムのうち、エール酵母に由来しない部分の99.5%が一致した」という。

 研究者たちは、数百年前に南米の酵母が大航海をしてバイエルン地方の醸造所にたどり着いた理由について、大西洋を横断する貿易が開始された際、木材の一片にまぎれて渡ったか、ハエの1種、ミバエの体内にこの酵母が潜み、持ち込まれたのではないかとみている。(c)AFP