【8月26日 AFP】現生人類が病気と闘う上で不可欠な遺伝子は、ネアンデルタール人やデニソワ人などの原始人類との性交渉を通じて継承されたとする米仏などの研究チームによる論文が、25日の米科学誌サイエンス(Science)に発表された。

   「交雑は決して行き当たりばったりの出来事だったのではなく、現生人類の遺伝子プールに有益な影響をもたらした」と、研究に参加した米スタンフォード大(Stanford University)のピーター・パーハム(Peter Parham)氏は言う。

■共通の遺伝子を探せ

 研究チームは、約3万年前に絶滅したネアンデルタール人と、前年ロシアの洞くつで歯と指の骨が発見されたデニソワ人のゲノムに関する情報を基に、双方に共通する遺伝子についてデータを精査した。

 ネアンデルタール人、デニソワ人と現生人類は約40万年前に共通の祖先から分岐したと考えられているが、現生人類は約6万5000年前にアフリカからアジア、ヨーロッパへと生息域を広げていき、2つの近縁種を凌駕した。既に、ネアンデルタール人のDNAの約4%、デニソワ人のDNAの最大6%が現生人類の一部に引き継がれていることが分かっている。

 今回の研究では、新たな病原体を撃退できるよう免疫系の適応を助ける「白血球抗原(HLA)クラスI遺伝子」に着目。その結果、遺伝子変異体「HLA-B*73」の起源がデニソワ人まで遡ることを発見した。デニソワ人は西アジア付近で現生人類と交雑した可能性が高いとされているが、HLA-B*73は現代アフリカ人に見つかることはまれな一方、西アジアでは一般的だ。

 研究チームでは、古代のHLA遺伝子が現生人類の間で増殖していき、現代のユーラシア人の半分以上に広がったと考えている。

■現代病の新たな治療法にも?

 現生人類のDNAに残された証拠から、異種間交雑が行われたことは確実とみられているが、性交渉が暴力的なものだったのか、合意の上だったのか、関係が長続きしたのかなどについては分かっていない。

 論文主筆者の仏研究者、ロラン・アビラシェド(Laurent Abi-Rached)氏は、「性交渉はそんなに頻繁ではなかったかもしれないが、現生人類の免疫系を形成する上で大きな役割を果たした」と述べた。

 アビラシェド氏は、研究が進めば、人類が生き残ってきた上でHLA遺伝子がどのような役割を果たしたかに加え、今日の人類が直面する自己免疫疾患におけるHLA遺伝子の働きなども明らかになるだろうと期待を示した。

 古代の祖先が現代人の体内に残した遺産の研究には、現代病の新たな治療法への道が開かれる可能性も秘められていると、研究者らは胸を踊らせている。(c)AFP/Kerry Sheridan