【8月22日 AFP】タイのタクシン・シナワット(Thaksin Shinawatra)元首相が22~28日の日程で来日する。

 東日本大震災の被災地訪問や日本外国特派員協会(Foreign Correspondents' Club)での会見が予定されているが、妹のインラック・シナワット(Yingluck Shinawatra)首相の就任直後の訪日には、国外で事実上の亡命生活を送る元首相がこれを機に反転攻勢に出るものとの見方が広がっており、野党は反発を強めている。

■「事実上の首相」アピール?

 タイ情勢に詳しい東南アジア研究所(ISEAS、シンガポール)のパビン・チャチャバルポンプン(Pavin Chachavalpongpun)氏は、来日についてタクシン氏が、自分こそ「事実上の首相」だと世界に示す狙いがあると見る。ただ、タクシン氏の「行動は速すぎる」ため、タイ国内の「エリート層と軍部の反撃に遭うだろう」と、パビン氏は分析する。

 タイの貧困層から厚い支持を集めるタクシン氏は、首都バンコク(Bangkok)のエリート層からは独裁的で王制をおびやかす存在として嫌われており、過去に同氏率いる政党が2回解党処分を受けるなど、軍部や裁判所からたびたび妨害を受けてきた。

 タクシン氏の広報担当者は訪日について、「過去の指導者たちが行う外国訪問のうちの1つに過ぎない」と説明。タクシン氏は「タイが落ち着くまで」帰国する気はなく「新政府の非公式の特使などといった役割はない」と述べている。

■兄を特別扱い、インラック政権への圧力高まる

 タイ・チュラロンコン大学(Chulalongkorn University)のThitinan Pongsudhirak氏(政治学)は、タクシン氏が表舞台に舞い戻ろうと急ぐのは「挑発的であり、もし妹にチャンスを与えたいと思っているなら賢明なやり方ではない」と指摘する。

 タイ国内では既に、インラック政権への法的圧力が高まっている。野党民主党は7月の総選挙直後、タクシン元首相ら政治参加が禁止されている人物が選挙活動に関与したとして、インラック首相のタイ貢献党(Puea Thai)の解党要求手続きに入った。前週には、スラポン・トーウィチャクチャイクン(Surapong Tovichakchaikul)外相がタクシン元首相を違法に支援したと、野党が告発した。

 インラック政権は、日本政府にタクシン氏へのビザ発給を要請した事実はないと主張しているが、日本では禁錮刑判決を受けた外国人へのビザ発給を原則禁止しており、日本政府はタイ政府の要請に応じ、タクシン氏を特例扱いしたことを認めている。

 タイ・パヤップ大学(Payap University)のポール・チャンバース(Paul Chambers)氏は、タクシン氏の訪日をインラック氏が進んで支援したとみえる点が、野党の政府批判の格好の材料になっていると言う。

 タクシン氏自ら「わたしのクローン」と呼ぶインラック首相は、軍部のクーデターを受けて2007年に制定された新憲法を改正して有罪となった政治家に恩赦を与える方針を示している。チャンバース氏は、これはタクシン氏の「免責」を狙ったもので「もし極めて大きな改革が行われ、タクシン氏が帰国するならば、反タクシン派のデモや軍部の反発を招くだろう」と指摘。インラック政権があからさまにタクシン氏支援の動きを見せるようであれば、政権の不正を暴こうという圧力が高まり、ひいては司法によって退陣させられることになりかねないと述べた。(c)AFP/Kelly Macnamara