【8月15日 AFP】世界金融危機以来、揺れる市場への投資に消極的になった米大企業が多額の現金をため込む傾向が続き、米経済成長を阻害している。

 不安定な状況下でも米企業は堅調に見えるが、米政府が「大不況」脱出を公式に宣言して2年が経過した現在も、米国の失業率は9.1%と高止まりしたまま。万が一に備えて資金を積み上げていながら、米国のみならず世界経済を覆う低調ぶりに、企業重役たちは神経質になっているようだ。

■資金調達懸念から現金保有へ

「企業はバランスシート上に大量の現金を保有しているが、必要なときに必要な資金を調達できるかどうか懸念している」と指摘するのは、米ノースウエスタン大(Northwestern University)のミッチェル・ピーターソン(Mitchell Petersen)教授(金融)だ。2008年9月のリーマン・ショックで、それまで容易に受けられた融資が突然困難になった記憶が、今も鮮烈に残っているのだという。

 金融部門の責任者は、バランスシート上に現金を保有することを好む。融資が突然止まる事態が再び訪れても資本リスクを回避するためだ。スタンダード&プアーズ(S&P)の調査部門「Capital IQ」によると、S&P500指数構成企業の保有現金総額は1兆1500億ドル(約88兆円)に上る。また、ムーディーズ・インベスターズ・サービス(Moody's Investors Service)の調査では、2010年末時点での米企業の保有現金高は、設備投資や株主配当、買収、合併などへの支出が「はるかに多額」だったにもかかわらず、前年比11.2%増だった。

 最も多く現金を保有していたのはテクノロジー業界の2640億ドル(約20兆円)。次いで医薬品の1410億ドル(約11兆円)、エネルギーと消費財がそれぞれ1000億ドル(約8兆円)強だった。

 企業別では、アップル(Apple)、マイクロソフト(Microsoft)、シスコ(Cisco)、ファイザー(Pfizer)、グーグル(Google)などが現金保有高で上位に付けている。

 ムーディーズによれば、米金利が過去最低水準に迫るなか、企業は追加調達した資金を債務の返済にあてており、企業の債務と現金の比率は2006年以来の低い値になっている。

■先行き不透明感、投資に足踏み

 米大企業はため込んだ現金を投資、自社株買い、株主配当増のどれにあてても良い。だが、多くの企業は「将来について悲観的で不透明性が高いと見ている」ため、様子見の姿勢を取っているとピーターソン教授は語る。

 欧州債務危機と米赤字財政によって市場の先行き不安は増しており、投資リスクは数年前と比べて高くなっている。企業の最高経営責任者(CEO)や最高財務責任者(CFO)は、設備投資をする前に「あと3か月、6か月、いや1年」と先延ばしにしているのだという。「投資を望む理由がない」(ピーターソン教授)

 同じ理由で、事業規模拡大や雇用増も先延ばしされている。「経済が揺らいでいる中では、大半の企業は雇用に積極的にはなりたがらない」と、転職あっせん企業のジョン・チャレンジャー(John Challenger)氏は言う。「来月から1000人増員して、半年後に需要がなくなったからと全員解雇するような羽目に陥りたくないのだ」

 しかし、それでは経済の活性化にも雇用の創出にも繋がらない。

 下落する一方の株価と拡大する国債利回り格差は「企業家たちに、今は事業拡大の時期ではなく、設備投資も延期すべきかもしれないと告げている」「それどころか、株価の急落で企業は給与を削って現金確保に走るかもしれない」と、ムーディーズのエコノミスト、ジョン・ロンスキー(John Lonski)氏は11日の調査報告の中で指摘している。(c)AFP/Juliette Michel