【8月10日 AFP】タイ初の女性首相に就任したインラック・シナワット(Yingluck Shinawatra)氏。アジアでは家族のつながりから国の指導者になる人物が多く、シナワット氏もその長いリストに名を連ねることになった。専門家は、アジアに女性元首が多いことについて、男女平等の考えだけとは言い切れないと指摘する。

 インラック・シナワット氏は、タイで強い影響力を持つタクシン・シナワット(Thaksin Shinawatra)元首相を兄に持つ。ほとんど無名だったインラック氏は、タクシン氏に「私のクローン」と呼ばれ、タイ貢献党(Puea Thai)の党首に推薦されたことを受けて、わずか数週間のうちに首相選に勝利するまでになった。

 インラック氏の彗星のごとき登場と同様の出来事は、アジア全土で見られる。一族の名を背負った女性が、特に前任者の死をきっかけに、権力の座に就くのだ。

 夫の暗殺を受けて、スリランカのシリマボ・バンダラナイケ(Sirimavo Bandaranaike)氏は1960年に世界で初めての女性首相となった。その20年以上後には、フィリピンの主婦、コラソン・アキノ(Corazon Aquino)氏が大統領となった。

 インドではインディラ・ガンジー(Indira Gandhi)氏が、父のジャワハルラール・ネルー(Jawaharlal Nehru)氏から権力の座を受け継いだ。パキスタンでも同じくベナジル・ブット(Benazir Bhutto)氏が、インドネシアではメガワティ・スカルノプトリ(Megawati Sukarnoputri)氏が権力を継承した。アウン・サン・スー・チー(Aung San Suu Kyi)氏も、独立の英雄だった父親の跡を継ぐはずだったが、ミャンマーの軍政が1990年の総選挙結果を否定した。

 この現象について専門家たちは、男女平等の進展というよりも、アジアの政界に広がる世襲に関係が深いと指摘する。

 タイ、パヤップ大学(Payap University)の研究員、ポール・チャンバース(Paul Chambers)氏は、伝統的に「マッチョな」父権社会のアジアでは、女性が「政治指導者になるはずではない」と述べる。だが、政党の「発展が進んでいない」ことから、富裕な一族による政党支配が可能となり、最終手段として女性にも機会が与えられるという。

「政党指導者は親族を信頼しがちで、党権力を一族内にとどめておきたいと考えるので、世襲が重要になる。男性指導者に男性の親族がいないとき、娘に白羽の矢が立つ」と、チャンバーズ氏は説明する。

 一方、シンガポール経営大学(Singapore Management University)の政治学研究者、ブリジット・ウェルシュ(Bridget Welsh)氏は、ブット氏の夫、パキスタンのアシフ・アリ・ザルダリ(Asif Ali Zardari)大統領など、男性も同じ方法で権力を手に入れていることを強調する。

「重要な点は、このシステムでは、エリートから権力を受け継いだ男女のエリートたちが権力を独占しているということ」と、ウェルシュ氏は指摘した。(c)AFP/Kelly Macnamara

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