【8月5日 AFP】南アフリカ・ポートエリザベス(Port Elizabeth)のニュー・ブライトン(New Brighton)タウンシップで、ここでは日常茶飯事と言ってもいい事件が起きた。2人組の男が年配女性の家に押し入り、テレビを奪った上、女性を守ろうとした間借り人を刺し殺したのだ。

 翌朝、近所の人々は2人組の居場所を突き止めた。2人を引きずり出してそれぞれの首にタイヤをかけ、タイヤにガソリンを注いで火を付けた。

「2人は随分前からこの一帯で悪事を働いてきた。われわれは彼らにおびえていたんだ」と、一部始終を目撃したある住民は説明した。「すべてが映画のワンシーンのようにあっという間に行われた。2人が炎に包まれる間、みんなはありとあらゆる罵声を浴びせていたよ」

「ネックレス」と呼ばれるこの私刑は、アパルトヘイト(人種隔離政策)の負の遺産の中でも最も身の毛のよだつものだ。少数白人政権との戦闘が激化した1980年代、タウンシップ(非白人居住区)では裏切り者に対してこの私刑が行われた。常習犯が「人民裁判」にかけられ、ネックレスの刑を執行されることもあった。

 その「ネックレス」が、ここポートエリザベスでも、自警のための新たな手段として復活しつつある。タウンシップではもともと、警察力が遠く及ばないことへの強いいらだちがある。地元警察の広報、ドゥミレ・グワブ(Dumile Gwavu)氏は「わずか2週間で未遂も含めて約6件のネックレス事件がありました」と話した。

 警察の統計によれば、南ア全体で見ても、1日平均46件の殺人件数のうち5%が自警目的のものだ。

■背景に暴力の歴史と警察不信

 先のニュー・ブライトンにおけるネックレス事件では、2人が本当に有罪なのか、刑の執行が正しかったのかに関し、疑問を差し挟む者は無きに等しかった。刑を目撃していた男性はAFP記者に、「2人組の片方は刺し殺された間借り人の服を着ていた」と話した。

「彼らの悪事を警察に通報したが、次の日にはまた悪事を働いたんだ。われわれは、どうにもならない未解決事件に嫌気がさしたんだよ。こうした状況が続けば、また(ネックレスを)やるよ。問題を永遠に取り除けるからね」

 警察広報のグワブ氏は、ネックレス事件では住民同士が結託するため、過去のネックレス事件で逮捕者が出た事例は無いと話す。「われわれはこれまで、住民たちとの会合で、法の裁きを独自に下すことはできないと説明してきたのですが。(被害に遭った)住民たちは怒っていて聞き入れてくれないし、警察そのものを信用していないんです」

 警察統計によると、凶悪事件の約80%は貧しい地域で起こっている。犯罪者が個人的に知っている相手に危害を加える場合が多く、このことが「集団的暴力」の増加に一役買ったと、シンクタンク「Centre for the Study of Violence and Reconciliation(暴力と和解のための研究センター)」のノムフンド・モガピ(Nomfundo Mogapi)氏は言う。

「この国が暴力の歴史を歩んできたこともあり、人々は政治家、役人、警察に自分たちの不満を聞いてもらうには暴力という手段しかないと感じているのです。(ネックレスは)政府庁舎に放火する、警察車両に投石する、道路をバリケードでふさぐなど、アパルトヘイト時代に用いられた暴力と同じパターンに属すると言えます」(c)AFP/Tabelo Timse