【7月23日 AFP】世界最大の言語の宝庫、パプアの言語が、「無関心」という波間に人知れず消えていこうとしている。

 インドネシアのチェンデラワシ大学(Cendrawasih University)の人類学者、ヨゼフ・ウォリー(Yoseph Wally)氏は、現地の村落を訪れては、村人たちが話している言葉に耳を傾ける。「インドネシア語を話す人がどんどん増えていて、今もその地域に古くからある言語を話すのは高齢者だけになっている」。村人が現地語をまったく理解しない村もいくつかあると言う。

 ニューギニアには1000を超える言語があり、うち約800はパプア・ニューギニアの、残る200ほどはインドネシアの領内の言語だ。しかし、これらの言語の大半は話者が1000人を切っており、話されているのは小村や集落の周辺だけだ。しかも「使っているのは高齢者だけなので、誰かが死ぬたびに、そうした言語の一部も死んでいっている」とチェンデラワシ大学博物館の学芸員も語る。

 行政はこうした現地語の保存に無関心か、あるいは国家統合のために公用語を優遇しさえすると、しばしば批判されている。特にインドネシア政府への批判が強い。しかし、インドネシアのハリ・ウントロ・ドラジャット(Hari Untoro Dradjat)文化観光相補佐官は、学校でいくら伝統的な言語の振興策をとっても、「普段の生活で話されなくなった言葉を保存するのは至難の業」だと弁明する。

■時間との戦い

 しかし人類学者のウォリー氏は、芸術や文化を通してパプアの言葉が忘れ去られないようにするのは可能だと考えている。パプアの人は歌や祝い事が好きで、そうした行事は伝統的な言葉でやらなければならない。若者たちは「歌詞の意味を理解するために、現地語を知りたいと思うだろう」(ウォリー氏)

 消滅の危機にある言語の記録を残そうとしている研究者たちもいるが、そのような言語は文字を持たないものが多く、簡単な作業ではない。英オックスフォード大学(Oxford University)では、ドゥスネル語(Dusner)を話す最後の3人の協力を得てこの言語の記録を残そうとしている。3人のうち2人が60歳でもう1人は85歳。時間との戦いだ。

 国連教育科学文化機関(ユネスコ、UNESCO)によると、世界には約6000の言語があるが、過去3世代で200を超える言語が消滅し、現在も約2500言語が消滅の危機にあるという。(c)AFP/Jerome Rivet