【7月19日 AFP】牧草が風で揺れ、山の頂を雪が覆うスイスでは、アンデルマット(Andermatt)のようにコンクリートの軍事施設が連なるような場所は人気の観光スポットにはなりづらい。

 だが、アンデルマットの軍事施設が大幅に縮小されるなか、エジプトの億万長者サミー・サウィリス(Samih Sawiris)氏がこれら施設を買い上げ、富裕層や著名人たちのための豪華な遊び場に作り替える計画を始めた。

「最初彼らは、私はクレージーだと思っていたようだけれど、やがて私がこの計画を実現できるように協力してくれた」と、サウィリス氏は語る。

 エジプトの通信会社オラスコム(Orascom)の創設者を父に持つサウィリス氏は、山肌が露出し、岩が多いスイス中部アンデルマットの村の景観を変え、曲がりくねったゴッタルド(Gotthard)峠を通ってしかたどりつけないこの村を魅力的なリゾート地に変える計画だ。

 サウィリス氏は、この取引は「最高の取引」だったと考えている。プロジェクトのウェブサイトによると、サウィリス氏はアンデルマットの施設用地130万平方メートルを取得するのに、3600万スイスフラン(約35億円)を投じた。

 2013年までに最初の5つ星ホテルと数戸の別荘を建設する予定で、その後10年以内に計800室以上のホテル6つとマンション490戸、それにビル42棟、別荘20~30戸を建設する。

 マンションは現在分譲中で、価格は1戸あたり100万スイスフラン(約9700万円)を超える見通しだ。18ホールのゴルフ場のための芝生の植え付けも始まっており、交通の利便性向上のための道路や橋の建設も進んでいる。

 さらに、国際会議やコンサートなどを行う600人収容の施設や、2000台分の駐車場、スポーツ施設や娯楽施設の計画もある。スキー場は改修し、アンデルマットとスキー場を結ぶケーブルカーも建設する。

 全体で2500人の新規雇用が生み出されるという。アンデルマットの住民1500人も、軍事施設が縮小することによる収入減を補うことができると、この計画に期待を寄せている。

■元村長も歓迎

 アンデルマットの元村長、カール・パレッティ(Karl Paletti)氏は、サウィリス氏が計画地にアンデルマットを選んだことは村にとって幸運だったと語る。

「われわれは軍にとても依存しており、軍が去る以上、(プロジェクトへの協力は)唯一の選択肢だった」とパレッティ氏は語り、同プロジェクトで職を見つける住民が増え、村からの住民の流出が止まったと指摘した。

 富豪や著名人が外部から訪れることで村の特徴が失われるのではないかとの質問にパレッティ氏は、「最終的には外部からの人と住民の比率は良いバランスになると思う」と答えた。

 もっとも、当初はサウィリス氏の建設計画への反対運動もあった。計画当初、畜産農家が牧草地をゴルフ場に変えることに反対したが、サウィリス氏は交渉の末、農家との合意をとりつけた。

 以後、サウィリス氏の会社は1億8500万スイスフラン(約180億円)を計画に投じた。総費用はさらにかかる見通しだ。

 エジプトやアラブ首長国連邦(UAE)、オマーン、モロッコなどの各地にリゾート施設を作ってきたサウィリス氏は、アンデルマットを選んだ理由について「都市化によって損なわれていないきれいで小さな村で、自然がとてもそばにある」からだと語る。

 これまでのところ、サウィリス氏の計画は成功を収めているようにみえる。1億1500万スイスフラン(約110億円)分の住宅がすでに売れ、さらに2200万スイスフラン(約20億円)分の注文が入っている。オラスコムによるとスイス、欧州、エジプトからの買い手が大半を占めているという。(c)AFP/Andre Lehmann