【6月14日 AFP】中国系米国人のエイミー・チュア(Amy Chua)氏が米国で『Battle Hymn of the Tiger Mother(母トラの戦いの歌)』という育児本を出版して以降、香港では、校門前で親たちが話すことといえば、この本の話題だった。

 チュアさんによる中国流のスパルタ教育は、競争の激しい香港に暮らす親たちにとっては、かなり身に覚えのある内容だ。

 ジャチンソン・チャン(Jachinson Chan)さんの娘は現在11歳と13歳。月曜日から日曜日まで、放課後はスペイン語やギター、テニスのレッスン、数学の塾などに通い詰め。

「みんなに頭がおかしくなったと思われてるよ」と、チャンさんは語る。でもそれは、子どもたちが忙しすぎるからではない。

「友人の間でも冗談のネタにされるくらいだよ。ぼくらの子どもの習い事が少なすぎるからさ」

 しかも、どんな習い事でも良いというわけではない。「もうピアノはたいしたことない」とチャンさん。「あなたの子どもが小学生だとして、それで学校でピアノをとても上手に弾けたとしよう。学校全体があくびするだろうね」

「たとえば、トロンボーンが演奏できると良い。他の人が演奏したくないようなのをやらないと。親たちが子どもに勧めてるのはオーボエだ」

 一部の幼稚園では、3歳の子どもが1日10時間の勉強をしているとの報道もある。

■中国流の「ヘリコプター・ペアレンツ」

 マリア・レオン(Maria Leung)さんは、子どもが小学生のころ、「かなりプレッシャーを感じていた」と語る。「中等学校での居場所を確保するために、子どもたちには頑張ってもらう必要があった」。息子はいまは14歳だ。「それが息子に影響を及ぼしたのはわかる。でもときどき、自分をコントロールできなくなる」

 レオンさんは、猛烈な競争を求める教育制度は問題の一部に過ぎず、中国の儒教的育児観にも問題があると指摘する。

「香港の子どもたちは、『ヘリコプター・ペアレンツ(ヘリコプター親)』たちに支配されてる」とレオンさんは述べる。ヘリコプターのように子どもの周りを周回して過剰に付きまとう「ヘリコプター・ペアレンツ」という呼び方は、中国では「子どもの面倒をとても良く見ている親」という解釈もできる。レオンさんもときに自分がヘリコプター・ペアレンツになっていることに気づく。

■西洋と中国、育児観に大きな違い

 レオンさんは、息子が小さかったころ、外国人の親子が多く集まる公園に連れて行ったことがあった。「西洋人は子どもが転ぶのを防ごうとしない。でもわたしはジャングルジムやブランコにまで子どもを追いかけ回す。これはとても異なった対応よ」と、レオンさんは語った。

 中国人と西洋人の育児方法の違いを研究する香港中文大学(Chinese University of Hong Kong)のチアン・ワン(Qian Wang)氏は、「育児の面で中国文化が独特なのは、親が、子どもたちの将来の成功に強い責任感を感じていること」と指摘する。

「西洋では、子どもたちの自由にさせようと考える。自主性を認め、子どもがどうなったとしても、子どものことを認めよう、と考える」

 一方、「中国文化では、親の愛というのは子どもをケアすることではなく、子どもが将来社会に出たときに成功するようにしてあげることだ。西洋文化でみれば、それは押しつけがましい行為にみえるだろう」と、ワン氏は分析した。(c)AFP/Judith Evans

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