【6月14日 AFP】日本の10代のポップスター『初音ミク(Miku Hatsune)』には、大勢のファンがついている。ミクは、トップヒットを連発するスターでありながら、ドラッグ使用やスキャンダルなどで人気が落ちることもない、汚れのない存在だ。

 レコーディング契約に数千万円規模の契約金を要求することもなく、遅刻をすることもない。かんしゃくを起こして暴れることもなければ、数千人が詰めかけたコンサート会場で2時間のライブをしても汗を流すこともない。

 そんなことありえないって?イエスとノーだ。初音ミクは3Dコンピューター・グラフィックなのだ。

 ソフトウエア開発者たちや漫画家、それに大勢のファンコミュニティーによる共同作業で生み出された初音ミクは、Jポップシーンで最もホットなスターの1人となった。

 7月2日には米国デビューも果たす。米カリフォルニア(California)州ロサンゼルス(Los Angeles)で7月1~4日に開催される「アニメエキスポ(Anime Expo) 2011」の中で行われるライブイベント「Mikunopolis(ミクノポリス)」だ。

■ライブができるバーチャルアイドル

 ミクは、厳密にいえば現実には存在しない。だからといって多数のファンたちの気持ちをそぐことはない。都内で3月に開かれたライブには数千人規模の主に若い男性のファンたちが集まり、ステージ上のスクリーンに映し出されたミクに熱狂した。

 ストロボライトとミラーボールが照らし、テレビカメラがとらえるなか、ライブバンドによる演奏が始まると、ファンたちは、ミクが登場する前から頭上でケミカルライトを振っていた。そして、ピクセルのかたまりがステージに現れ、それがミクの形をとると、会場には大歓声が巻き起こった。

 ライブショーは、ロックコンサートのすべての要素をそろえていた。観客とスターとの間の軽いやりとりやストロボライト、ドライアイスの噴出、それにアンコールまで。

 ミクにあまり興味のない人がこの奇妙なショーを見ると、人類が奴隷のようになってコンピュータープログラムをたたえるディストピア的な未来を容易に連想できるだろう。

 だが、事情を知る人やファンにとってこの現象は、通常のコンサートよりもずっと参加型で、共同作業で、インタラクティブな経験だ。というのも、ファンはたんにヒット曲を歌うだけでなく、自らの手でヒット曲を創り出してもいるからだ。

■クリエイティブなシーンを背景に

 ミクの背後にあるのは、ヤマハ(Yamaha)のボーカロイド(Vocaloid)と呼ばれるデスクトップミュージックソフトウエアだ。このソフトウエアを使うことで、ファンは文字通りミクに歌を歌わせることができる。歌詞を入れ、メロディーを入れて、合成音声トラックをつくることができるのだ。

 2007年に初音ミクを生み出したのは、北海道札幌市のクリプトン・フューチャー・メディア(Crypton Future Media)。声優・歌手の藤田咲(Saki Fujita)さんが声を担当した。

 そしてミクに命を吹き込むよう促されたファンたちは、動画サイトのユーチューブ(YouTube)やニコニコ動画(Nico Nico Douga)に、3万作品以上の楽曲や動画などを寄せた。

 あふれるような創作活動からは、多くのヒット曲が誕生した。初音ミクたちボーカロイドの楽曲を集めたコンピレーションアルバムは、2010年5月に日本の週間アルバムチャートで1位に登りつめた。

■「あかつき」で宇宙にも

 彗星のように現れた初音ミクは、実際に、宇宙にも到達した。

 日本が2010年5月に初の金星探査機「あかつき(AkatsukiPlanet-C)」を打ち上げた際、初音ミクの絵が描かれたパネル3枚があかつきに乗せられたのだ。これはファンたちが1万人以上の署名を集めた結果、実現した。

 米国のファンは、セガ(Sega)とトヨタ(Toyota)の提供で7月2日にロサンゼルス・コンベンション・センター(Los Angeles Convention Center)で開かれる「Mikunopolis」で、ミクのライブ姿を見ることができる。(c)AFP/Frank Zeller