【6月2日 AFP】エイズ(AIDS)はその存在が世界で認識され始めた当初、ロック・ハドソン(Rock Hudson)やフレディ・マーキュリー(Freddie Mercury)など多くの有名人の命を奪っていった。しかし、華やかな世界で活動する彼らの仲間たちは、この病気の根絶を目指す闘いの中で大きな役割を果たしている。

 エイズは1981年、米国の医師がカリフォルニア(California)とニューヨーク(New York)の若い同性愛者の間で奇妙な死者が続出しているとする報告で初めて公に知られるようになった。2009年の世界保健機関(World Health OrganizationWHO)の数値によれば、その後30年でエイズは約3000万人の命を奪い、それとは別に3300万人がエイズを発症、もしくはHIV(エイズウイルス)に感染している。

■エイズで命を落とした有名人たち

 エイズで死亡した初めてのスターは俳優ロック・ハドソンだった。ハドソンが1980年代初めにHIV感染を認めたことは、この病気に対する世間の認識を高めた。ハドソンは1985年、59歳で死亡している。
 
 米国のエンターテイナー、リベラーチェ(Liberace)は87年に死去。90年には英俳優イアン・チャールソン(Ian Charleson)、米芸術家キース・ヘリング(Keith Haring)が命を落とした。ヘリングはわずか31歳の若さだった。

 クイーン(Queen)のフレディ・マーキュリーは翌年に死去。おそらく、エイズでこの世を去った初めての大物スターだろう。ヴィレッジ・ピープル(Village People)を生みだした音楽プロデューサー、ジャック・モラリ(Jacques Morali)、オスカー監督トニー・リチャードソン(Tony Richardson)も同年に死亡。また同じ年に、元NBA選手マジック・ジョンソン(Magic Johnson)がHIV感染を公表しNBAを引退している。

 92年には映画『サイコ(Psycho)』で知られる俳優アンソニー・パーキンス(Anthony Perkins)、英俳優デンホルム・エリオット(Denholm Elliott)、SF作家アイザック・アシモフ(Isaac Asimov)が相次いで命を奪われ、翌年には元テニス選手アーサー・アッシュ(Arthur Ashe)、バレエダンサーのルドルフ・ヌレエフ(Rudolf Nureyev)が死亡した。

■有名人たちの活動

 エイズに対する意識が高まり、少なくとも先進国でより効果的な治療が生みだされるようになると、犠牲となる有名人は徐々に少なくなっていった。しかし、有名人たちの運動は続いた。エルトン・ジョン(Elton John)やエリザベス・テイラー(Elizabeth Taylor)など様々な有名人がその立場を生かし、エイズに対する意識を高め、HIV研究のための資金を集めている。同時に、彼らの活動が当初は「同性愛者の病気」とされたエイズに対する偏見を改善している。

 エルトン・ジョンが1999年、エルトン・ジョン・エイズ財団(Elton John AIDS FoundationEJAF)の資金を集めるためパートナーのデービッド・ファーニッシュ(David Furnish)さんとともに開始したイベント「White Tie and Tiara Ball」には、毎年多くのスターが参加。EJAFは1992年の創設以来、2億2500万ドル(約203億円)を集め、55か国で資金を提供している。

 EJAF英国支部のアン・アスレット(Anne Aslett)氏は、故ダイアナ元妃(Princess Diana)、ウーピー・ゴールドバーグ(Whoopi Goldberg)、シャロン・ストーン(Sharon Stone)などの影響力に言及し、「有名人は自分の言葉で気持ちを込めて意見を言える。その発言力は絶大だ」と話した。

 エリザベス・テイラーは、自身の病気が深刻になるまで定期的に慈善イベントなどを行っていた。テイラーの友人だったマイケル・ジャクソン(Michael Jackson)も熱心な支持者だった。

 1991年にHIVへの感染を発表したマジック・ジョンソンは、以降、エイズ根絶を目指した献身的な活動を続けている。ジョンソンは、1990年代半ばに開発されたウイルス抑制のための抗レトロウイルス薬を使うカクテル療法を受け効果が出ており、この病気が初めて報告されてから30年を迎えるのを前に、ニューズウィーク(Newsweek)が行ったインタビューで自分の感染と生存には意味があると語った。

「私に起こった事には意味がある。それは他の誰かを助けるということだ」(ジョンソン)

 しかしジョンソンは、同性愛者が自分を守る手段を取り始めた一方で、アフリカ系米国人の間ではこの問題がタブーになっていることに懸念を示した。2006年の数値によれば、黒人女性のHIV感染の割合は白人女性の15倍だという。

「これらの数字には本当に心を痛めている。同性愛者のコミュニティーは、彼らのメッセージを世間に伝えるという素晴らしい仕事を成し遂げた。それは成功したが、黒人のコミュニティーでは今でもHIVに対する偏見があり、それが前進を妨げている」(ジョンソン)

 有名人の慈善活動で資金を得ている団体の中には、持久力がより大事だとして、有名人の影響力を重視しない団体もある。

 EJAFが支援している団体のひとつ、カイザー家族財団(Kaiser Family Foundation)のドリュー・アルトマン(Drew Altman)氏は、「エイズ啓蒙の世界では、エルトンは有名人としてではなく、運動の真の指導者として認識されている」と話した。

 一方でEJAFのアスレット氏はさらなる行動が必要だと話す。

「エイズのために多くを失ったが、ここまで進歩した。ここであきらめることはできない。エルトンならこう言うでしょう。エイズとの闘いは医療分野でかつてないほどの支持を得ている。エイズ発症例の初の報告から30年を過ぎようとする中で、このキラーウイルスの根絶に向けて我々は行動しなければならない」(c)AFP/Michael Thurston