【5月16日 AFP】その発見は、職場の懇親会がきっかけで生まれた。赤ワインにある種の鉄の化合物を浸すと、送電効率の良い超伝導の状態が発現する――。

 茨城県つくば市の独立行政法人物質・材料研究機構(National Institute for Materials ScienceNIMS)の高野義彦(Yoshihiko Takano)氏らの研究チームは今年9月、オランダのハーグ(The Hague)で開かれる超伝導発見100周年を記念する会議で、驚くべきこの研究結果を発表する予定だ。

 超伝導とは、特定の金属の温度を絶対零度(マイナス273度)近くまで下げると電気抵抗がゼロになる現象のこと。オランダの物理学者、ヘイケ・カメルリング・オネス(Heike Kamerlingh Onnes)がハーグ近郊のライデン(Leiden)で、1911年に発見した。効率の良い送電を可能にすると期待されている。

 高野氏らのチームは前年、鉄系超伝導関連物質Fe(Te,S)系をビール、ワイン、日本酒などのアルコール飲料に浸して70度で24時間置いてからマイナス265度程度まで冷やすと、超伝導体となることを発見した。

 その効率は、エタノールや水に浸した場合に比べて、赤ワインで7倍、白ワインで4倍、ビール、日本酒、ウイスキーでそれぞれ3倍と、特に赤ワインの効率が高かったという。

 メカニズムはまだはっきりしていないが、味が落ちやすい酒ほど超伝導が発現しやすいという。高野氏は、味覚は主観的なものと前置きしつつ、人間が味覚で感じる物質と超伝導を起こす物質に何らかの関係があるのではないかと話した。

 研究チームは、この発見によって将来、超伝導を利用した送電ロスの少ない送電網が実現し、気候変動の原因とされる化石燃料利用の削減が可能になると期待している。

 現在の技術では、超伝導送電線を作るには、送電線を液体窒素で冷却する必要がある。各電力会社などはすでに小規模な実験プロジェクトに乗り出しているが、コストも高く、大規模な商用送電には向いていない。(c)AFP/Miwa Suzuki