【4月22日 AFP】オーストリアのザルツブルク近代美術館(Museum der Moderne Salzburg)は21日、第二次世界大戦中にナチス・ドイツ(Nazis)によってユダヤ人の所有者から押収されたオーストリア人画家グスタフ・クリムト(Gustav Klimt、1862-1918)の絵画を、カナダに住む元所有者の子孫へ返還すると発表した。

 この絵画は、クリムトが晩年の1915年に手がけた「Litzlberg am Attersee(アッター湖畔のリッツベルク)」と題された油彩の風景画で、独特のアールヌーボー(Art Nouveau)調を保ちながら点描画法の影響を受けている。200万~300万ユーロ(約2億4000万円~3億6000万円)相当の価値があるとされる。

 カナダ・ケベック(Quebec)州モントリオール(Montreal)在住のジョルジュ・ジョリッシュ(Georges Jorisch)さん(83)はこの絵画について、祖母のアマーリエ・レートリッヒ(Amalie Redlich)さんが所有していたものだと主張しており、専門家もこの主張を裏付ける報告をしていた。

 レートリッヒさんは1941年、ナチスの秘密国家警察ゲシュタポ(Gestapo)によって国外移送され、殺害された。クリムトの作品はこの時ナチスに押収された。

 その後、ナチ党員だった現地の美術収集家が買い上げ、さらにザルツブルク州の所有となって州内の美術館を点々とした。今回の返還にはまだザルツブルク州議会の承認が必要だが、所有権は証明されており、手続きは問題なく進むと見られている。

 ジョリッシュさんはレートリッヒさんの唯一の遺産相続人。絵画が返還されたら売却し、その収益から130万ユーロ(約1億5000万円)をザルツブルク近代美術館に寄付したい意向だ。ジョリッシュさんは2010年にも、英ロンドン(London)から返還されたクリムト作品「カッソーネの教会(Kirche in Cassone)」を売却している。

 オーストリアでは1998年の返還法に基づき、ユダヤ人からナチスが押収した1万点に上る絵画を、所有者の子孫へ返還する作業を進めている。(c)AFP

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