【4月19日 AFP】ラトビアのバルディス・ザトレルス(Valdis Zatlers)大統領(56)は、25年前にチェルノブイリ(Chernobyl)原発事故が起きた際、医療チームの一員として現地に派遣された時のことを今でも鮮明に覚えている。

 当時ソ連領ラトビアの医師だったザトレルス氏は、1986年4月26日の事故から12日後の5月8日、軍からチェルノブイリ行きを命じられた。諸外国に事故のことを伏せていたソ連政府は、事態収拾に向けて国内から救助隊や専門家を総動員しようとしていた。

 大統領は現地に60日間滞在した。仕事内容は、食品の安全性をチェックし、放射能に汚染された食品を食べないよう住民に注意を促すというもので、原発から半径30キロ圏内の全域を除染するという「非現実的な」仕事も含まれていた。大統領は60日間の体験を大学になぞらえ、「私が卒業したなかでは最も意義深い大学でした」と振り返った。

 救助隊員の多くはその後、がんなどの病気を発症しているが、大統領は今のところ健康に問題はないと話した。

■それでも原発を支持

 大統領は、大統領に就任した翌年の2008年にチェルノブイリを再訪した。

「22年後もあの超現実的な風景はそのままでした。あの見捨てられた土地に明るい未来はありません。少なく見積もってもこの先300年はね」と語る大統領。だが、この世の終わりのような光景を見て、さらには福島第1原子力発電所の事故を受けても、大統領は原子力エネルギーの将来性を信じていると言う。

 大統領は、2つの事故は区別されなければならないと強調した。チェルノブイリの場合は原子炉の設計や技術的なミスが原因で、福島の場合は自然災害が原因であるため、2つは全く別物だと言うのだ。

「チェルノブイリの事故も福島の事故も、スケールといい環境被害の大きさといい、世界中に大きな衝撃を与えました。しかしこの恐怖が去れば、新たな原発が建設されるでしょう」

■バルト海沿岸地域が原発銀座に?

 バルト3国では、少なくとも原子炉3基の新規建設が計画されている。またラトビアは、隣国リトアニアが04年の欧州連合(EU)加盟の条件でもあったチェルノブイリ型原子炉の廃炉を09年に実施したのを受け、20年までに新たな原発を建設するプロジェクトにも携わっている。 

 チェルノブイリの事故で大量の放射性物質が降り注いだベラルーシは、2016~20年の間に同国初の原発を稼働させる予定で、ロシアもバルト海に面したカリーニングラード(Kaliningrad)に原発を建設する計画を立てている。(c)AFP/Aleks Tapinsh