【3月21日 AFP】東北地方太平洋沖地震と津波の二重の大天災を生き抜いた命を、第三の大惨事が脅かしている――被災者たちは、東京電力福島第1原子力発電所の事故による原発危機を信じられない思いと恐怖に押しひしがれながら見守っている。

 心に大きな傷を負い、家を追われ、粉々にされた暮らしを立て直すという困難に直面している被災者たちのうち、原発事故の状況は制御できており、放射能漏れはわずかで健康被害を憂慮するほどではない、という公式見解に納得する人は少ない。

■「見えない」放射能に募る恐怖

 大津波の直撃に遭った東北沿岸の街のひとつ、宮城県気仙沼市で小売店を営んでいたミヤカワヒロミツさんは、放射能の問題が極めて怖い、その恐怖は目に見える津波よりも大きいと訴える。

 小さな港町である岩手県宮古市のサガマテイイチさんは、校長を務めていた学校が今、津波被災者の避難所になっているが、原発事故に関する混乱し、時に矛盾した発表に大きな苛ちを感じており、政府には本当のことを言ってほしい、と語った。自分も家を失いながらお湯や食料を配給するボランティアをしている市民のタニサワタイゾウさんも、福島原発の事故の危険性について政府の説明は曖昧だと不安がる。みな心配しており、今いる避難場所から動くべきか否かも分からない状況で、政府の答えがほしいのに得られないと嘆く。

 同じく被災者のイトウアヤコさんは84歳、第二次世界大戦で米国が広島と長崎に落とした原爆を覚えており、核による災害がもたらす特別の恐怖を思い出している。災害自体は目に見えないのに人が死んでしまうことが最も怖いと言い、すでに飲み食いに困っている状況でさらに原発事故が降りかかり、とても大変だと語った。

■情報不足が恐怖心と不信感に拍車

 宮古市のわずか南にある同県陸前高田市は、巨大津波で町のほぼ全体が壊滅した。18歳のホソヤシオリさんも、東京から聞こえてくる公式発表を信用できないでいる。政府は嘘をついているのではないか、たくさんの専門家を連れてきて説明させているが、政府に都合のいいことだけを言う人たちなのではないかと思っている。彼らは「チェルノブイリのようにはならない」と言うが、本当に怖い、と身を震わせる。

 こうした恐怖心と不信感が相まっているのは、東北地方の被災地の生存者が得ている情報の多くが間接的なためでもある。電力供給が途絶え、被災地ではテレビのニュースや新聞に触れることがほとんどできていない。従ってニュースが口コミで広がっていく過程で誇張されてしまう。最悪の例は、放射能の雲が発生するから危険な雨に触れないようにといった警告が、携帯電話を介したチェーンメールで広がる場合だ。チェーンメールでは「政府が大企業幹部に日本から脱出するよう勧告した」、「東京ですでに致死量の放射能が観測された」といったデマも見受けられる。

 東京電力(Tokyo Electric PowerTEPCO)には安全性に関する情報を隠した過去があり、それが噂や陰謀説に拍車をかけている。2002年には点検記録の改ざんがあったことを認め、福島原発を含む管轄下の沸騰水型原子炉全17基が停止に追い込まれる事件があった。科学者と原子力反対運動家らによる東京の団体、原子力資料情報室(Citizens' Nuclear Information Center)のフィリップ・ホワイト(Philip White)氏は、「人びとはTEPCOを信用していないし、TEPCOが真実を語るとは期待していない」と厳しく語る。「みんな本当に怒っている。けれど今回のような危機下で、同じレベルの迅速でオープンな情報を期待することはできない。これは物事を隠ぺいするといった問題ではない。何が起こっているのか、彼らは本当に分からないのだ」(c)AFP/Olivia Hampton