【2月12日 AFP】パキスタンで米外交職員とされる男性がパキスタン人2人を射殺したとして逮捕され、米政府が外交特権を理由に即時釈放を求めている問題で、パキスタン警察は11日、殺人容疑があるとして釈放を拒否した。ラホール(Lahore)の裁判所も、この米国人の勾留延長を認めた。

 レイモンド・デービス(Raymond Davis)容疑者は前月27日、ラホールでパキスタン人男性2人を射殺。直後、ラホールの米総領事館はデービス氏を救出するため現場に車を派遣したが、この車がさらに別のパキスタン人男性1人をはねて死なせた。

 逮捕されたデービス容疑者は、警察の調べに対し、射殺した2人が強盗だったとして正当防衛を主張している。

 米国は即時釈放を求めており、米議員らはパキスタンへの支援75億ドル(約6300億円)と軍事支援20億ドル(約1700億円)を凍結すると主張。米政府も、閣僚級対話が脅かされるだろうと警告している。

 一方、反米感情の強いパキスタン国民の間では、デービス容疑者を裁判にかけるべきだとの主張が高まっており、支持率の低迷するパキスタン政府は圧力にさらされている。11日にはデービス容疑者の絞首刑を求めて500人規模の抗議デモがあった。

■「正当防衛ではない」とパキスタン警察

 ラホール市警は11日、「レイモンド・デービス氏が殺人を犯したことは証明されている」と発表。動機については触れなかったが、「冷酷な殺人だ。目撃者の証言によると、相手に直接発砲し、1人が逃げ出したあとも発砲を続けた。故殺だ」と説明した。

 また、死亡したパキスタン人2人の所持する銃の引き金からは指紋が検出されず、銃弾もマガジンに収まったままで装てんされていなかったことが確認されたと指摘。「(2人に)生存の可能性を与えなかったため、われわれは正当防衛ではないと考える。正当防衛ではない証拠がある」と述べた。

 この発表を受け、カーメラ・コンロイ(Carmela Conroy)米総領事は改めて、デービス容疑者の即時釈放を要求した。

■カギとなる肩書きの謎

 パキスタン警察はデービス容疑者が外交官査証を所持することを確認したが、デービス容疑者の素性をめぐっては激論が巻き起こっている。

 米大使館は、事件翌日の1月28日にはデービス氏の身元を「ラホールの米総領事館職員」と発表したが、翌29日には「イスラマバード(Islamabad)の米大使館に配属された外交官」と変更した。国際法上、大使館の外交官は全面的な外交特権を有しているが、総領事館職員は重大犯罪に関与した場合には地元当局が拘束することができる。(c)AFP/Waqar Hussain