【1月24日 AFP】オランダのワーゲニンゲン大学(Wageningen University)でこのほど、200人ほどを招いて、あるセミナーと試食会が開かれた。参加したある女子学生(20)は、手にしたチョコレート菓子をしばらく見つめた後、肩をすくめて意を決したように口に運んだ。「おいしい・・・木の実の風味があるわね!」

 このチョコレート菓子に入っていたのは、幼虫だ。

 セミナーでは、食肉価格の高騰により、将来的には欧米諸国でも昆虫食が広がるとの予測が示された。同大の昆虫学者、アーノルト・ファン・ハウス(Arnold van Huis)氏は、動物の肉の代わりに昆虫を食料として利用すれば、健康的で環境にも優しいタンパク源になると話す。「ビッグマックが120ユーロ(約1万3千円)もする日がやがて来ます。そのとき、昆虫バーガーが10分の1の値段で買えるなら、みんな虫を食べるでしょう」

 休憩時間になると試食コーナーに人が集まり、用意されたタイ風のマリネしたイナゴの春巻き、バッファローワームのチョコレート菓子などはあっと言う間になくなった。「キッシュ・ロレーヌみたいなものですよ。ハムやベーコンの代わりに幼虫が入っているだけで」と、調理したシェフは満足げだ。

■「昆虫食」が人類を救う?食材としての利点は

 セミナーの展示によると、世界には食用になる昆虫が約1200種以上いるという。同大学の昆虫学者、マルセル・ディッケ(Marcel Dicke)氏は、昆虫を汚いと感じたり極端に恐がる人もいるが、国連食糧農業機関(FAO)が2050年までに世界の人口は90億人に達すると予測するなか、食料としての昆虫への偏見を捨てる以外に選択肢はないと指摘する。

 昆虫は高タンパク、低脂肪で養殖の効率も良い。飼料10キロで生産できる牛肉がわずか1キロなのに対し、昆虫なら6~8キロに上る。もともと生息数が非常に多い上、養殖しても排出する温室効果ガスやふんは畜産に比べて少なく、食べた人が重い病気にかかるような変異病原体を媒介することもないという。

 ファン・ハウス氏によれば、メキシコでは500種、アフリカでは250種、中国などのアジア諸国では180種の昆虫が主に「珍味」として食用にされている。一方のディッケ氏は、一般的な人は知らないうちに、ジャムやパンなどの加工食品に混入した昆虫を平均で年500グラムほど食べているとの研究結果を紹介した。

■「見た目」のハードル、乗り越える工夫も

 オランダでも昆虫を好む冒険心にあふれたグルメ人はまだ少ないが、その数は着実に増えつつある。現在、既に国内3か所の農場でミールワーム、バッファローワーム、イナゴ類が養殖されている。

 そのうちの1つ、南東部ドゥールネ(Deurne)の昆虫農場では、週に1200キロのミールワームを生産している。食用になるのは1~2%で、残りは動物の飼料。しかし食用ミールワームの需要も、2008年には300キロだったのが2010年は900キロと、徐々に増えているという。

 農場主のロラント・ファン・デ・フェン(Roland van de Ven)氏は、昆虫の見た目が問題だと語る。「加工して、見ただけでは昆虫だと分からなくすれば抵抗感はなくなると思うんだがね。豚だって切ってパックに入っているのではなくて、丸ごと串刺しになっていればひるむだろう?それと同じだよ」

 ワーニンゲン大学では、昆虫からタンパク質を抽出して食材にする研究が進められている。「大豆原料の人造肉と同じような製品を昆虫から作れないか、検証したい」。オランダの昆虫養殖業者団体の会長を務めるマリアン・ペータース(Marian Peters)氏は、ピンクがかった昆虫タンパクの粉末の袋を手に、いつの日か昆虫がピザの材料として普通に使われるようになるのが夢だと語った。(c)AFP/Mariette le Roux

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